権利意識が芽生えた利用者の家族への適切な対応方法とは|トラブル対策編(第50回)

権利意識が芽生えた利用者の家族への適切な対応方法とは | トラブル対策編(第50回)

介護業界では家族トラブルやクレーム、民事裁判が増えています。事故が原因となり、家族とのトラブルに繋がりやすいポイントはどこでしょうか。わかりやすく解説します。

家族トラブルが増える時代背景

介護保険サービスがスタートする前は、介護は福祉分野で行われていました。それが2000年の介護保険の登場により、介護は福祉から「契約」「職業」へと変化を遂げたのです。

当初は利用者数が少なかった介護保険サービスも、近年ではすっかり社会に浸透しました。それに伴って、利用者側は「保険料や自己負担分を支払っている」という顧客意識が強くなってきたようです。

【介護保険サービスの利用者数の推移のグラフ】2001年:約2,600万人。2015年:約6,200万人。

一方の介護業界は人材不足で、現場は一般のサービス業並みの意識を育てる余裕がありません。権利意識が芽生えた利用者側と、余裕がなく職業意識の低い介護業界との間にギャップが生じているのです。ここにトラブルの背景があります。

家族トラブルにつながるポイントは2つある

家族とのトラブルを回避する方策は、介護事業者の努力にかかっています。国保連(国民健康保険組合連合会)に苦情が寄せられた事例を見ると、事故自体は今までも発生していたようなものがほとんどです。

それなのに大きなトラブルに発展してしまう施設には、大きく分けて2つの原因があると考えられます。

1つ目は「事業者としてやるべき最低限の家族対応ができていないから」です。事故が起きた際の最低限やるべき基本的な対応をしていない施設は、いざというときに家族の心情を損なうようなミスを犯しています。

2つ目は「トラブルになりやすい事故に、場当たり的に対応しているから」です。同じ事故でも、「トラブルにつながりやすく対応が難しい事故」があります。そういう事故に対しては、対応方針や対応手順を明確にしておくことが大切です。その都度、場当たり的に対応しているようではいけません。

事故が原因で家族トラブルになる理由と対策

トラブルに発展してしまう2つの原因と、その対策について詳しく見ていきましょう。

最低限の家族対応ができていない

事故について利用者家族にきちんと伝達できていない介護施設職員のイラスト。

事故が起こった際に、「誰が」「いつ」「どのように対応する」といった基本的な対応方法が確立されていない介護事業者が少なくありません。

事故の際には、それぞれの立場のスタッフが「自分がやるべき対応」を理解し、責任をもって行動できるようにしておくことが大切です。

場当たり的に対応している

起こった事故を場当たり的に対応している介護施設職員のイラスト

事故が起きたときの対応の手順を決めていない施設も問題です。対応が難しい事故が発生したときに、「どうしよう」と困っても遅いのです。

トラブルになりやすい事故は対応手順をルール化して、現場の職員をしっかり教育しておく必要があります。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント トラブル対策編

介護リスクマネジメント  トラブル対策編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
近年、介護事業者と家族のトラブルが増加しています。介護現場は、トラブルになりやすい事故が多いにもかかわらず、対策が未熟な施設が少なくありません。事故が起きた際の適切な対応手順をしっかり学べる一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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