【介護リスクマネジメント】第2回 職員の注意力や見守りで事故が防げるか

職員の注意力や見守りで事故が防げるか | 事故防止編(第2回)

介護事故の原因や対策を気合論や観念論ですませていませんか? 事故が起きてしまった際、職員個人に原因を転嫁してしまうと、本来の事故原因にアプローチすることが困難になってしまいます。

人のミスという事故原因の危険性

間違った目標設定と並んでよく見かけるのが、間違った事故原因の解釈です。事故が起こったときに原因の解釈を間違えて対応すると、事故防止活動はやはりうまくいきません

介護施設の事故報告書を見ているとよく出てくるのが、「職員の不注意によるミス」というフレーズです。そして、多くの場合、それに対する再発防止策の欄には「もっと注意する」と書かれています。これでは事故を減らすことはできません。

【従来の事故報告書によく書かれていた内容】再発防止策:今後はもっと注意するように指導した。事故原因:職員の不注意によるミス。

人間は機械ではなく生き物ですから、誰でも必ずミスをします。ですから、誰かが一つミスをしただけで重大な事故につながってしまう現在の体制に大きな問題があるのです。

例えば、現場に何かしらミスを誘発する原因があるかもしれません。まずは、事故原因を「人のミス」のままにするのをやめることから始めましょう。その先の「本当の事故原因」にたどり着けなくなってしまうからです。

そもそも、これまで介護の世界では「この事故はどうやったら防ぐことができたのか」という科学的な検証がなされてきませんでした。そこで私たちのチームは、歩行の介助によって実際にどの程度転倒を防止できるかの実証実験を行いました。その結果、近くで見守っていても20%程度しか転倒を防げないことがわかったのです。

このように、事故防止活動の効果を上げるには「どうしたら事故を減らせるのか」「本当の原因はどこにあるのか」をしっかり考える必要があります。

個人責任の追及は何も生み出せない

実は、事故原因を「職員の不注意によるミス」とすることで起こる弊害がもう一つあります。それは、「事故原因を個人の責任に転嫁し、押しつけてしまっている」という点です。

管理者にそのつもりがなくても、職員は責められたと感じて傷ついてしまいます。当然、職員にも感情やプライドがありますから、個人責任を追及されるとわかると、都合が悪いことは隠したくなるものです。

そうなると正確な情報が掴めなくなるので、本当の事故原因を究明できなくなってしまいます。このように職場全体の雰囲気を隠蔽(いんぺい)体質にしてしまうので、決して個人責任を追及してはいけません

【自己原因を個人の責任にすることで陥る悪循環】事故が起こる→職員個人の責任にされる→責められたと感じて傷つく→責められたくないので、都合が悪いことは言わなくなる→事故原因があいまいになる。という悪循環が発生する。

事故が起きたら、管理者は「今回は偶然その職員だったが、 全員が同じ立場になる可能性がある」と考えましょう。そして今後誰がその立場になっても大きな事故に結びつかないように、対策を考える姿勢が大切です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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