介護事故の原因や対策を気合論や観念論ですませていませんか? 事故が起きてしまった際、職員個人に原因を転嫁してしまうと、本来の事故原因にアプローチすることが困難になってしまいます。
人のミスという事故原因の危険性
間違った目標設定と並んでよく見かけるのが、間違った事故原因の解釈です。事故が起こったときに原因の解釈を間違えて対応すると、事故防止活動はやはりうまくいきません。
介護施設の事故報告書を見ているとよく出てくるのが、「職員の不注意によるミス」というフレーズです。そして、多くの場合、それに対する再発防止策の欄には「もっと注意する」と書かれています。これでは事故を減らすことはできません。
人間は機械ではなく生き物ですから、誰でも必ずミスをします。ですから、誰かが一つミスをしただけで重大な事故につながってしまう現在の体制に大きな問題があるのです。
例えば、現場に何かしらミスを誘発する原因があるかもしれません。まずは、事故原因を「人のミス」のままにするのをやめることから始めましょう。その先の「本当の事故原因」にたどり着けなくなってしまうからです。
そもそも、これまで介護の世界では「この事故はどうやったら防ぐことができたのか」という科学的な検証がなされてきませんでした。そこで私たちのチームは、歩行の介助によって実際にどの程度転倒を防止できるかの実証実験を行いました。その結果、近くで見守っていても20%程度しか転倒を防げないことがわかったのです。
このように、事故防止活動の効果を上げるには「どうしたら事故を減らせるのか」「本当の原因はどこにあるのか」をしっかり考える必要があります。
個人責任の追及は何も生み出せない
実は、事故原因を「職員の不注意によるミス」とすることで起こる弊害がもう一つあります。それは、「事故原因を個人の責任に転嫁し、押しつけてしまっている」という点です。
管理者にそのつもりがなくても、職員は責められたと感じて傷ついてしまいます。当然、職員にも感情やプライドがありますから、個人責任を追及されるとわかると、都合が悪いことは隠したくなるものです。
そうなると正確な情報が掴めなくなるので、本当の事故原因を究明できなくなってしまいます。このように職場全体の雰囲気を隠蔽(いんぺい)体質にしてしまうので、決して個人責任を追及してはいけません。
事故が起きたら、管理者は「今回は偶然その職員だったが、 全員が同じ立場になる可能性がある」と考えましょう。そして今後誰がその立場になっても大きな事故に結びつかないように、対策を考える姿勢が大切です。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています