【事例で学べる介護技術】第4回介護現場で利用者さんからセクハラされた場合の対応方法

介護現場で利用者さんからセクハラを受けた場合の対応方法

利用者さんからのセクシュアルハラスメントに悩んでいませんか? 当記事では、介護現場でのセクシュアルハラスメントの定義や対応方法を解説していきます。

セクシュアルハラスメントとは

「暴力・ハラスメント」とは「危害を加える要素を持った行動で、容認できないと判断されるすべての脅威を与える行為」として定義することができます。社会にはさまざまなハラスメントがありますが、今回のテーマであるセクシュアルハラスメントとは、意に添わない性的な誘いかけや、好意的態度の要求など、性的な嫌がらせや相手の望まない性的な言動すべての行為をいいます。

介護現場に限ったものではないですが、特に訪問介護のケアスタッフには女性が多いことや、単独での訪問であることなどから、被害者になりやすいと考えられています。

ハラスメントは、先ほど「容認できないと判断されるすべての脅威……」と記載しましたが、容認できないとはどの程度なのでしょうか? 規定があるわけではありません。個々人によっても受け止め方が違うことや、許容する範囲も違ってきます。

よって、個々人が「不快である」と思った段階で、ハラスメントと考え、対応を検討してよいでしょう。

【セクシュアルハラスメントとは?】 <意に沿わない性的誘いかけ>困った顔の職員にハートマークを飛ばしてアプローチをする高齢者のイラスト <好意的態度の要求>困った様子で断ろうとする職員と、職員の手を握って強引に誘い出そうとする高齢者のイラスト |上記のような性的な嫌がらせや相手の望まない性的な言動すべての行為で「不快」と思った段階でハラスメントである

それでは、具体的に事例で対応方法をみていきましょう。

事例1】訪問介護でセクハラをされた場合

利用者Aさん(70代後半、男性)のご自宅に訪問すると、訪問するたびに自分の性体験の話や卑猥な話をしてきます。

聞く素振りも見せず、相手にしないようにしていましたが、話の内容はその後も徐々にエスカレートし、「性体験はどうだったの?」などと私を話に引き込もうとするようになりました。適当に返事をしたり、話をはぐらかしたりしていたのですが、最近はそういった言葉を聞くのも嫌になり、Aさんの自宅を訪問することが苦痛になっています。

不快ということを利用者さんに伝える

この事例の場合、利用者さんは介護者が嫌がっている気持ちを気にも留めず、自分の話に関心を持ってもらおうとしています。

もちろん、介護者は話をはぐらかしたり、関心を見せないようにすることで精一杯かと思います。しかし、「今は仕事中ですから」といった対応をすると、利用者さんは「性的な話を嫌がっているわけではないんだなと勝手に思い込んでしまうことがあるのです。

対応策として、まずは所属している事業所に業務報告をするのと同時に、セクハラを受けていることと、あなたの気持ちをしっかり伝えておきましょう。事業所で良いアドバイスが得られる場合があります。

また、一度きっぱりと「卑猥なお話は聞きたくないので、やめてください」と利用者さんに伝えることが必要です。その場で伝えることが難しければ、業務が終わって訪問先から出るときに伝えるとよいでしょう。

断ったときに相手の方が怒りだしたり、威嚇するようであれば、「事業所の責任者から連絡させていただきます」と伝えて退室します。あとは事業所の協力を得ましょう。

セクシュアルハラスメントをする利用者さんは、ご自身の行為がセクハラにあたると認識していないことも多くあります。それをきちんと介護者から伝えることで、「嫌だと思わせていること」に気づくこともあります。

【事例1】訪問介護でのセクハラ対策”3つのポイント”: <良くない対応>関心を示さない、はぐらかす/「今は仕事中ですから」と誘ってくる高齢者に背を向ける職員のイラスト <望ましい対応>勤める事業所に報告、相談する/上司に面談で相談をする職員のイラスト|一度きっぱりと相手に断る

【事例2】認知症の方からセクハラされた場合

認知症の利用者Bさん(90歳、男性)は、訪問の度に「どこかに良い人いないかな? 一緒に横で寝て、話をしてくれるだけでいいんだけど。誰かそういう人を紹介してよ。あんたでもいいよ。手を握っていてくれないかなぁ~」と言いながら、ときにはお金を渡そうとしてきます。

Bさんは同じことを何回も繰り返し、注意しても忘れてしまいます。

認知症をしっかり理解して対応を検討する

利用者さんが認知症の場合、セクハラと判断するべきかどうか悩んでしまいますよね。

まずは認知症をよく理解しましょう。「今、なぜそのような話をするのかな?」と考え、理解するように努めることは介護職として対応の基本です。

認知症の症状はさまざまありますが、利用者さんの「こだわり」が強く症状として現れてしまう場合もあります。「こだわり」の特徴としては、「こうでなければならない」という考え方が強くなったり、同じ話をずっと続けたりし、周囲が拒否などをするとさらに頑なになってしまう状態を指します。そのため、認知症の方の症状によって性的な話を続けてしまっていることも考えられます。

しかし、先に述べたように、利用者さんの言動・行動の受け止め方には個人差があります。そのため、利用者さんの状態や行為の内容からセクシュアルハラスメントかどうかを判断するのではなく、介護者が不快に思っているか否かで判断することが必要です。

認知症の方は、言われた内容が記憶に残りにくい状態です。性的な話をしてくることに対して注意をしても、また繰り返してしまうことが考えられます。

もし介護者が不快だと思ったのであれば、担当者の変更を事業所に相談するなどの対応をすると良いでしょう。

【事例2】認知症の方からのセクハラ対策: まずは認知症を理解しよう→セクハラかどうか検討する→事業所に相談するなど対策する

【事例3】利用者さんの家族からセクハラされた場合

要介護5で寝たきり状態の利用者Cさん(80代、女性)には、Cさんを介護しているご主人がいます。ご主人は,Cさんから離れると必ず近寄ってきて「旦那さんいるの?」「胸が大きいね。触らせてくれない?」などと言ってきます。

言われることに対し嫌悪感はありながらも無視していましたが、そのうちに「今度外で食事しない?」「うち以外にはどんな人にサービスに入っているの?」「休みはいつ?」など、訪問日以外の時間に外で会うことを誘われたりするようになりました。

Cさんに聞こえてしまうのではないかと思うと、大きな声で拒否できず悩んでいます。

家族や他の介護職を巻き込む

「個人的なお話しはお断りします」と、やめていただくようにきっぱりお伝えすることが大切です。もしくは、サービスを提供しているときに、Cさんに対して「ご主人が私を誘うんですよ、奥様に失礼ですよねぇ」と伝えるなど、家族を巻き込むことでご主人を牽制できる場合もあります。

また、その利用者さん宅に訪問している他の介護職も同じような被害にあっている可能性もあります。恥ずかしいかもしれませんが、自分が嫌な思いをしていることを伝えて、対応方法についての助言をもらう方法もあります。もしかするとお互いに悩んでいることがわかり、情報交換ができてよい対応方法のアイデアが生まれるかもしれません。

事業所にも報告をしましょう。セクハラに限らず、ハラスメントは普段から、事業所の中で話し合える環境にしておくことが望ましいです。セクハラのような問題は、時間が経過するほど話題にしづらくなります。

被害者の方が、タイムリーに被害状況を正しく伝えた方が、事業所にとってもその後の対応がしやすくなります。

【事例3】利用者のご家族からのセクハラ対策”3つのポイント” <「やめてください」と意思表示する>「個人的はお話はお断りします」と宣言する職員のイラスト <ほかの介護職の方と情報交換する>「実は私もなの…」と切り出すほかの介護職員と、その話を聞く職員の女性のイラスト <時間が経つ前に事業所に報告>困った様子で面談で上司に報告する職員のイラスト

まとめ

セクシュアルハラスメントの対応方法を、下記にまとめました。

セクハラ対応はさまざまあり、場面や対象者の状況によっても変える必要があります。そのために大切なのは、観察する力を養うことです。

私たち看護師や介護職は、ケアを実施するために必要な利用者さんの病状などを常に観察することができているはずです。その観察する力を、ハラスメントに対しても持つようにしましょう。

コミュニケーション力も必要です。セクハラする方に対して、「嫌なのでやめてください」と伝えることは重要です。

しかし、伝え方は、セクハラをする利用者さんの病状や性格などを考慮しながら「強く伝えても大丈夫」「やんわりと伝えた方がよい」などを判断しましょう。

担当を変更することだけが解決方法ではありません。介護者自身が嫌な思いをせずに、サービスを継続できることを第一に考えて対処できることが望ましいでしょう。

また、事業所は、セクハラや暴力などが発生した場合にどう対応するのか、方針を示すようにしておくと職員は報告しやすくなるでしょう。

著者/阿部智子
監修者/田辺有理子
イラスト/アライヨウコ

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