1人あたりの被害金額150万円!介護職が高齢者の消費者トラブル防止で活躍

年々増加する高齢者の消費トラブル! その解決に、介護職の”寄り添い”や”気づき”が活躍していた!

1人あたりの平均金額が150万円にも上る高齢者の消費トラブルの被害。実は、そうしたトラブルの多くを発見しているのは介護職です。実例も参考にしながら、介護職のどのような視点がトラブルの発見・解決につながっているかを解説します。

介護職は高齢者の消費者トラブルに気づきやすい立場である

全国の消費生活センターに寄せられる相談のうち、60歳以上のトラブルが年々増加しています。2018年度には、全体101.8万件のうち60歳以上が約43万件と過去10年で最高を記録し、相談全体に占める割合も49%と半数を占めています。

高齢者の消費者トラブルは、1件当たりの被害金額が大きいのが特徴です。相談1件当たりの契約金額の平均は、65歳未満の相談が98.4万円に対して、65歳以上では150.9万円と約1.5倍に跳ね上がります

【消費者トラブルの相談のうち高齢者(60歳以上)の件数と割合】年:60歳代:70歳代:80歳以上:60台以上合計件数:相談全体に占める割合。2016年:13万5,276万件:11万743件:6万3787件:30万:30万9,806件:39.5%。2017年:17万6597件:12万3,658件:6万6,252件:36万6,507件:43.9%。2018年:18万9,214件:17万98件:7万387件:43万4,699件:49.4%。2018年は過去10年で最大の43万件超え。
出典:『60歳以上の消費者トラブルが40万件を突破!』(独立行政法人国民生活センター)

高齢者の被害にはいくつか特徴があります。

1つ目の特徴は、「被害にあっていることに本人が気づかない」ことです。そのため、繰り返し同様の被害にあい、最終的に被害金額が大きくなってしまうのです。

2つ目の特徴は、「本人以外からの相談が多い」こと。中でも、日々のケアにあたっているヘルパーやケアマネなどの介護職が異常に気づき、未然に防いだケースが多数、報告されているのです。

介護職が消費者トラブルを解決に導いた実例を紹介

2020年2月に消費者庁がまとめた「高齢者の消費者トラブル 見守りガイドブック」では、介護職が利用者の異変に気づいたことで、消費生活センターへの相談につながったり、被害の拡大を止める事例が多数、紹介されています。

例えば、こんなケースがありました。

<ケース1>健康食品の押し売り

一人暮らしの利用者の自宅に未開封のダンボールが山積みされていることに気づいたケアマネが利用者に状況を聞いているイラスト。

独り暮らしの利用者宅を訪ねたケアマネが、部屋で未開封の段ボールが山積みされているのに気づきました。

不思議に思ってたずねると、突然かかってきた電話で健康食品を紹介され、「ひざの痛みに効くなら」と試しに1回だけ購入。すると、次々に営業電話がかかってきて断り切れず、続けて購入するはめに。とうとう年金だけでは支払いが足りず貯金も底を尽きてしまいました。

<ケース2>ワンクリック詐欺で料金請求

デイサービスを利用中の男性が、スマートフォンが鳴るたびに怯える様子に気づいた介護スタッフ。よくよく話を聞いてみると、スマホの広告をクリックしたら「有料動画の登録完了」画面が出てしまい、「支払わなければ法的手段を取る」と。どうしてよいかわからなくなってしまったと打ち明けられました。

いずれも介護職を通じて発覚し、解決へとつながったケースです。どのケースでも日々、高齢者の一番近くで変化や異変に気を配れていたからこそ気づくことができたといえます。

少しでも異変や変化に気づいたら、消費生活センターへの相談を促したり、必要に応じて一緒に相談してあげることがトラブルの深刻化を防いだり、未然に被害を防ぐことにつながります。

このほかにも

  • 利用者宅に見慣れない車が出入りしている
  • 大量の荷物がたびたび送られてくる
  • 光熱費や税金の督促状がたまっている

なども、気づきのポイントです。

「変だな」と気づいたときに、使ってはいけないNGワード

それでは、「変だな」と感じたときにはどうすればいいのでしょうか?

被害に気づいたり、相談を受けたときに、問い詰めるのは逆効果「最近どうですか?」「これ、新しく買われたのですか?」というさりげない声がけから、「どうすればいいか一緒に考えましょう」という寄り添った声がけが有効なのは日々のケアと同様です。

反対に、次のような言葉を使って質問攻めにするのはNGです。ハンドブックでは、トラブルに気づいたときに使ってはいけない「NGワード」も紹介されています。

【高齢者の消費者トラブルに気づいたときのNGワード】どうして信用したの?・お金を払ってしまったの?おだてにのるから・・・!・どうして契約したの?・契約してしまったあなたにも責任がありますよ

その上で、実際にトラブルが起きている可能性があるとわかったら、ケアマネや地域包括支援センターを通じて消費生活センターへつなげるのがベスト。

全国には858ヵ所の消費生活センターがありますが(2019年4月現在)、管轄のセンターがわからない場合は、全国共通の消費者ホットライン「188(局番なし)」で管轄のセンターを案内してもらえます。

センターでは被害救済のための相談にのっているほか、高齢者や障がい者に必要な支援を行っています。例えば、クーリングオフのはがきの書き方を教えたり、返金などが必要であれば事業者とのあっせん交渉や弁護士など専門家の案内を行っています。

介護職の社会的地位向上につながる可能性も

最近は、コンビニの店員が高齢者の振り込み詐欺を防いだというニュースをよく目にします。ですが、介護職も、高齢者の消費者トラブルを防ぐのに大いに活躍しています。

「いつもと様子が違う」「見慣れない品物や請求書が届いている」「金銭的に困っている様子が伺える」など、あなたのちょっとした気づきが、利用者を大きなトラブルから守れるかもしれません。

そして、そうしたことの繰り返しは、介護職の社会的な地位向上へとつながっていくのではないでしょうか。

著者/横井かずえ
イラスト/服部元信
@hattorimotonobu

(参考)
60歳以上の消費者トラブルが40万件を突破!』(独立行政法人国民生活センター)
消費者庁 高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会資料』(消費者庁)
高齢者・障がい者の消費者トラブル見守りハンドブック』(消費者庁)

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