介護職員向けの新型コロナウイルスの慰労金は、勤務先の都道府県で感染者が初めて報告されてから2020年6月30日までの間に10日以上勤務した全職員が対象です。
感染者、あるいは濃厚接触者に対応した事業所の職員は20万円、それ以外の事業所の職員には5万円が支給されます。
厚生労働省の発表では、2020年10月末で申請者のうち72%は慰労金が支給されましたが、残りの約3割は未支給となっています。なかには、事業者が職員からの申請を受け付けてくれない、自治体が事業所からの申請を拒否するといったケースも見られました。
新型コロナウイルスの収束が見えないなか、第二弾の支給にも注目が集まり、2021年1月には立憲民主党など野党4党が、5月には医労連が慰労金の再支給を望む声を上げています。
介護施設は常にクラスターが発生するリスクと隣り合わせで、現場職員の負担軽減や継続的なサポートが求められています。
新型コロナウイルスに対応する介護職員向けの慰労金とは
2020年6月、国は新型コロナウイルスとの戦いの最前線で頑張っている介護サービス従事者を対象に、最大20万円の慰労金支給を決めました。
20万円・5万円の対象者、支給の条件、手続きの方法を解説します。
慰労金の対象職種は?
介護職慰労金の対象職種は、「介護保険の全サービス、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、養護老人ホーム、軽費老人ホームに勤務し、利用者と接する職員」です。
では、具体的にどのような人を指すのでしょうか。
そのほか、ヘルパーらとともに感染症対策を施したサービス提供をしていれば、利用者のご自宅に伺わない訪問介護事業所の事務職員も対象となります。地域包括支援センターの事務職員も同様です。
また、介護保険サービスでなくとも、福祉用具貸与事業所といった生活支援サービスを行う総合事業者や、国から指定を受けていなくても、緊急事態宣言下で市町村からの要請を受けてコロナ関連の業務を続けた事業所も対象となります。実に幅広いですよね。
さらに上記の対象者のうち、「勤務先のある都道府県で初めて新型コロナ感染が生じた日」と「勤務先で感染者の受け入れが始まった日」のいずれか早い日から2020年6月30日までの間に、10日以上勤務実績のある方が慰労金を受け取れる該当者になるのです。
対象者
※未届けのホームは含まれない
対象期間
※ただし、しばらく感染者が発生しなかった岩手県は、緊急事態宣言の対象地域とされた2020年4月16日から6月30日まで
※チャーター機やクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から患者を受け入れた日を含む
対象となる勤務日数
※勤務時間数は問わない
出典:『「介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業等及び職員に対する慰労金の支給事業」について』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成
慰労金20万円の支給対象となる介護職員
慰労金の支給には、20万円と5万円の2つのケースがあります。
それでは20万円が支給される基準は、どのようなものでしょうか。
慰労金20万円の対象者
訪問介護サービスの場合は、患者・濃厚接触者の発生日以降に、実際に利用者を訪問していることが条件です。
この場合はヘルパーのみならず、居宅療養管理指導・居宅介護支援の職員や、福祉用具貸与事業所職員も、支給対象です。また、デイサービスの場合も同様です。患者・濃厚接触者の発生日以降に勤務した職員が対象となります。
慰労金5万円の支給対象となる介護職員
一方、5万円の支給基準は、20万円に比べるととても簡単です。
慰労金5万円の対象者
慰労金5万円の場合は、勤務先のある都道府県で1例目の患者が発生した日から数えて2020年6月30日までの対象期間の間に、利用者からコロナウイルス感染者も濃厚接触者も出なかった事業所や施設の職員の方が対象となります。
退職した介護職員も慰労金をもらえる?
意外と申請を忘れてしまうのが、退職した場合です。退職した職員も慰労金の対象者になるので注意して見ていきましょう。
退職者は2つの申請方法があります。
- 2020年6月30日までの対象期間に在籍していた勤務先から申請
- 個人で都道府県に直接申請
いずれの申請方法も、働いていた施設や事業所から勤務期間の証明をもらっておくことが不可欠です。
複数の事業所に勤務していた場合は、一番多く勤務した事業所・施設に申請をお願いするようにしましょう。派遣社員として働いていた場合も、派遣元事業者や派遣先事務所から勤務証明を取得し、そのコピーを保管してください。勤務先が医療施設と介護施設が一体となっており、どちらの施設でも働いている場合は、片方からしか給付申請ができないようになっていますのでご注意ください。
楽なのは1つ目の「在籍していた勤務先から申請してもらう」という方法です。都道府県の申請はひと手間かかるせいか、締切日が行政によってまちまちでしたが、厚生労働省から各都道府県に対して、締切を過ぎた申請でも必ず受け付け、すみやかに支払うようにと通達したため、時間が遅くなっても支給された方は多いかもしれません。
慰労金支給までの流れ・手続き
ここからは、慰労金支給までの流れや手続きについて説明しましょう。
慰労金の費用は国から支払われるものですが、実施の主体は都道府県になります。現在施設や事業所に勤める方が行う手続きは、以下の通りです。
1.勤務先に「代理受領委任状」を提出
勤務先である事務所や施設に、まず慰労金の代理受領委任状を提出します。その後、事務所や施設から銀行振込で慰労金を支給してもらうというシンプルなものです。
ただし、市町村経営の地域包括支援センターや特別養護老人ホームの職員の場合は、申請者を市町村長の名前にし、代理受領委任状を事業所や事業所職員に提出します。その後の流れは上記と同じです。
2.勤務先が手続きを行い、職員に支給
次に勤務先の事業者や施設が行う手続きです。介護従事者から代理受領委任状が提出されたら、事業者側はその職員がほかの事業者と重複申請をしていないかどうかを確認します。
そして職員が複数の事業所に勤めている場合は、対象期間に通算どれくらいの期間で勤務したのかと、申請する事業所が「主たる勤務先」か否かをチェックし、5万円か20万円支給の対象者かを決めます。都道府県に委任状を法人単位で取りまとめて申請し、慰労金が振り込まれたら介護従事者に支給するのです。
慰労金の支給状況
さて、2020年に話題となったこの介護職向けの慰労金、実は2020年10月末時点で都道府県から事業所に対しての支給された割合は72%でした。実に申請者の4人に1人が慰労金を受け取れていないのです。
介護事業所は病院同様、感染リスクが高く、クラスター対策が欠かせません。現場の疲労度が増しているにもかかわらず、慰労金が上手く行き渡らない理由は、どんなところにあるのでしょうか。課題もいくつか指摘されています。
行政側の申請拒否も問題に
慰労金の支給が上手く行き渡らない理由の1つは、支給対象者が代理受領委任状を事業所に提出しているにもかかわらず、「事業所が申請をしてくれない」というもの。支給対象者の電話相談が厚生労働省に相次ぎました。
そこで2020年8月26日に、厚生労働省は各事業所宛てに異例とも言える「介護サービス事業所・施設等に勤務する職員に対する慰労金支給に係る協力の依頼について(令和2年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分))」と題した業務連絡を行いました。
同様に、厚労省は都道府県に対しても、慰労金の手続きを速やかに行うよう何度も通知を出しました。そこには各都道府県の申請締切日を過ぎて送られてきた代理受領委任状にも、柔軟に対応するように書かれています。これが行われたのも、厚生労働省のコールセンターに行政側の申請拒否の相談があったからでした。
未届け有料老人ホームは支給対象外
厚生労働省は2020年7月28日に、現場の質問にQ&A方式で答えるコロナ禍の介護事業所支援策である「緊急包括支援事業」第2版を公表しました。ここに赤字で書かれたのが、「未届け老人ホームは、慰労金の支給対象外」の文言でした。
未届け有料老人ホームとは、都道府県への届け出を行わずに運営をする施設のこと。都道府県へ届け出て認可が下りるまでには高いハードルがあります。例えば、居室面積や人員配置体制のほか、防災設備など、ハード面もソフト面も国の基準に沿ったものにしなくてはいけません。足りない職員の雇用や必要な設備の設置が義務付けられ、定期的な行政による監査や指導が入ります。こういった指導を逃れるように、未届けのまま運営する有料老人ホームが、まだまだ全国には多いのです。
厚生労働省の指導により、2018年度には897件あった未届け有料老人ホームが、2019年度には662件に減りました。しかしまだまだその数は多く、未届けながら慰労金を申請するホームもあったのです。
慰労金は1回きり? 2回目の支給は?
最後に、冒頭の「介護職慰労金が再び支給されるのでは」という巷の期待について説明しましょう。既に支給された慰労金は、2020年4〜6月までの約3ヵ月間に事業所に10日以上働いた人が対象となりました。
しかしコロナウイルスの感染は未だに収束の目処が立っておらず、長引くばかりです。そこで2021年1月、国会で慰労金再支給法案が提出されたことで、にわかに期待が高まりました。
野党が再支給案を提出するも予算案に盛り込まれず
2021年1月に立憲民主党、日本共産党など野党4党が、医療職、介護職への慰労金再支給に向けた法案を共同で提出しました。
支給人数は約245万人、財源は約2,700億を要する法案に対し、菅義偉総理は「引き続き、必要な支援を実施していく」と述べ、既存事業で財源が不足している分を補うだけに留めました。よって現状、支給の予定はありません。
また、2021年5月には日本医労連(日本医療労働組合連合会)が記者会見を開き、現場から追加支援として慰労金の再支給を求める声が上がっていることを発表、2021年8月には老施協(全国老人福祉施設協議会)が慰労金再支給などを盛り込んだ要望書を田村憲久厚生労働大臣に提出しています。
感染リスクが高いなかで勤務し続ける職員に対しての金銭面での支援が期待されますが、2021年9月時点で再支給の話が持ち上がってはいないのが現状です。
介護施設のクラスター発生状況
再支給の見込みは立っていませんが、クラスターの発生状況を見てみると、介護現場がどれだけ高いリスクと向き合っているかを窺い知ることができます。
日本全国のクラスターの多くが介護施設(高齢者福祉施設)で発生しており、2021年5月19日に厚生労働省が発表した同年5月17日時点の集計内容によると、高齢者福祉施設のクラスター発生件数は1,498件。2021年4月26日に発表された高齢者福祉施設でのクラスター発生件数が1,317件だったことから、1ヵ月も経たないうちに181件も増えたことになります。
発生場所 | 件数 |
---|---|
高齢者福祉施設 | 1,498件 |
医療機関 | 1,160件 |
障害者福祉施設 | 164件 |
児童福祉施設 | 344件 |
飲食店 | 1,374件 |
運動施設等 | 155件 |
学校・教育施設等 | 919件 |
企業等 | 1,433件 |
その他 | 375件 |
出典:『福祉施設のクラスター、全国で2000件超える 厚労省 介護など増加』(介護のニュースサイト Joint)よりWe介護編集部で作成
高齢者へのワクチン接種が8割を超え、高齢者施設でのクラスター発生は一時的に落ち着きましたが、ここに来て再び増加傾向を示しています。
※『介護施設のクラスター、再び増加 基本的な対策の徹底を改めて要請 厚労省』(介護のニュースサイト Joint)
介護施設は利用者と密着する場面が避けられないこと、また限られたリソースの中で懸命な努力を続けても、クラスターを完全に抑えるのは困難であること。これが現状なのです。
介護施設や事業所は、新型コロナウイルス蔓延以前にも、クラスターの発生が大きなネックでした。ひとたびインフルエンザが施設内に広がれば、家族の面会もすぐに禁止になります。施設内は季節性のインフルエンザだけならまだしも、四六時中そして1年以上に渡って新型コロナウイルスに神経を尖らせている状態。また高齢者にとって死に直結するコロナウイルスの存在は、介護事業所で働く人を終わりのない消耗戦に引きずり込んでいるかのようです。
日々ギリギリの状況下で必死に持ちこたえている介護職の方々に向けた継続的なサポートが期待されています。
著者/横山由希路
監修者/斉藤正行
(参考)
『「介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業等及び職員に対する慰労金の支給事業」について』(厚生労働省)
『第203回国会 厚生労働委員会 第6号(令和2年11月20日(金曜日)』(衆議院)
『新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(介護分)に関するQ&A(第2版)』(厚生労働省)
『介護保険最新情報Vol.798』(厚生労働省)
『福祉施設のクラスター、全国で2000件超える 厚労省 介護など増加』(介護のニュースサイト Joint)
『介護施設のクラスター、再び増加 基本的な対策の徹底を改めて要請 厚労省』(介護のニュースサイト Joint)