高齢者虐待の現状と、介護職が知っておきたい高齢者虐待防止法とは?

高齢者虐待の現状と、介護職が知っておきたい高齢者虐待防止法とは?

介護施設や家庭で起こる高齢者虐待の件数は増加傾向にあり、喫緊に解決しなければならない課題で、ニュースでもたびたび報じられます。

具体的な高齢者虐待の件数は、介護従事者によるものが年間で644件家族や親族などからによるものが年間で1万6,928件にも上ります。これらの虐待の背景は、職員や家族の介護ストレスおよび知識不足、認知症に症状などさまざまです。

特に、身体拘束によって起こる虐待は悪循環が指摘されており、虐待を受けてしまった高齢者の身体機能の低下や認知症の症状悪化を招き、さらなる身体拘束につながるリスクが懸念されています。

高齢者虐待防止法では、身体拘束の禁止や通報の義務などが明記されたほか、家族介護の負担軽減についても対応を図ることが盛り込まれています。

介護従事者が先頭に立って、この高齢者虐待の問題に取り組んでいくことが期待されています。

高齢者虐待の現状

高齢者虐待とは、家族や親族、あるいは介護施設の職員などから高齢者に対して行われる虐待行為です。

暴力行為(身体的虐待)だけではなく、虐待行為のなかには心理的な虐待である暴言や無視、介護を受けさせなかったり、必要な支援をしなかったりすること(介護・世話の放棄・放任:ネグレクト)、勝手に資産などを使い込むこと(経済的虐待)、性的な嫌がらせなど(性的虐待)も含まれます。

日本で起こる高齢者虐待の数は増加傾向にあり、介護職はもちろん、地域全体で防止に取り組むべき課題です。

【高齢者虐待の件数と相談・通報件数】介護従事者からの虐待。虐待判断件数:2019年度644件。2018年度621件。3.7%増。相談・通報件数:2019年度2,267件。2018年度2187件。3.7%増。家族や信三kからの虐待。虐待判断件数:2019年度1万6298件。2018年度1万7249件。1・9%減。相談・通報件数:2019年度3万4057件。2018年3万2231件。5.7%増。
出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

介護従事者による虐待件数の推移

介護老人福祉施設などの要介護施設や、居宅サービス事業所といった要介護事業に従事する人からの虐待件数は、わずかながらも増加し続けています。

【介護施設の職員による高齢者虐待】以下年度:相談・通報件数:虐待判断件数。2007:379:62.2009:408:76.2011:687:151.2013:962:211.2015:1640:408.2017:1898:510.2019:2267:644.
出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

都道府県と市町村が虐待と判断した事例は、2018年度だと621件、2019年度は644件でした。

また、虐待と判断されなくとも市町村が相談・通報を受けた件数は、2018年度で2,187件、2019年度は2,267件。実際に届いた相談件数の3分の1以下ほどが、実際に虐待があったと行政に判断されている状況です。

家族や親族による虐待件数の推移

それでは、家族などの身近な養護者からの虐待件数の推移を見ていきましょう。

2018年度に比べ、2019年度の養護者からの虐待判断件数はやや減っているものの、相談件数は増えています。

【家族や親せきによる高齢者虐待】以下年度:相談・通報件数:虐待判断件数。2007:19971:13273.2009:23404:15615.2011:25636:16599.2013:25310:15731.2015:26688:15976.2017:30040:17078.2019:34057:16928.※家族や親せきは養護者をさします。
出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

都道府県と市町村が虐待と判断した事例は、2018年度だと1万7,249件、2019年度は1万6,928件でした。

また、虐待と判断されなくとも相談・通報の件数は2018年度で3万2,231件、2019年度では3万4,057件。介護施設よりも近親者による虐待の件数は、圧倒的に多いことが窺えます。

介護施設の状況と同じく、実際に届いた相談件数の半分以下ほどが、実際に虐待があったと行政に判断されている状況です。

虐待を受ける高齢者の傾向

介護従事者から虐待を受けるケース、家族や親族から虐待を受けるケースには傾向があり、どちらも女性の高齢者が虐待を受けてしまう割合が高くなっています。

  介護従事者からの虐待 家族や親族からの虐待
男女比 男性31.1%:女性69.9% 男性24.8:女性75.2%
最も多い年代 85~94歳(42.9%) 75~84歳(44.9%)
要介護3以上 75.8% 37.5%

出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

それぞれの傾向を見ていきましょう。

介護施設で虐待を受ける高齢者の傾向

介護施設で虐待を受ける高齢者の約7割が女性で、被虐待者の約43%が85〜94歳と非常に高齢でした。

また、要介護度が重度になるにしたがって、身体的な虐待を受ける割合が高かったのです。

虐待の起こる施設・事業所の傾向

虐待は、入所系施設であろうと、居宅系であろうと、場所を問わず起きているのが現状です。

ただし、起きる虐待の種類には傾向があります。

入居系では、居宅系と比べて身体の虐待、介護などの放棄が起きる割合が高いことがわかりました。

一方、居宅系では心理的な虐待や経済的な虐待が起こりやすくなっています。

家族から虐待を受ける高齢者の傾向

身近な近親者から虐待を受ける高齢者の約75%は女性で、うち75〜84歳が約45%を占めました。

また、要介護度が重度になるにしたがって、介護・世話の放棄が発生する割合が高くなる傾向が見られました。心理的虐待においては、要支援1・2では要支援2の方が発生する割合は多くなりますが、要介護1~5では要介護度が重度になるにしたがって、心理的虐待が発生する割合が低くなる傾向が見られました。

虐待を起こした家族の傾向(性別、世帯構成、年齢、続柄など)

虐待を起こした家族の傾向はどのようなものでしょうか。

性別で見ると、男性が約63%、女性が約28%。高齢者虐待を行っているのは圧倒的に男性の方が多いという実情が浮かび上がります。

高齢者に対する虐待が発生している世帯構成を見てみると、未婚の子と同居している割合が35.7%と最も多く、次いで夫婦のみの世帯が22.6%になりました。このことから、虐待をした人は介護を一人で担っており、負担が大きいことで虐待に至るという構造が見えてきます。

また虐待者の年齢は50代が一番多く、約26%次いで40代が約17%を占めました。続柄は息子が一番多く、約4割。次いで夫が約21%、娘が約18%、妻が約7%、孫が約4%です。

最後に虐待者の生活環境を見ると、虐待を受ける高齢者とマンツーマン同居の場合が約半数を占め、1対1の介護の難しさを浮き彫りにしました。

高齢者が虐待を受ける要因

介護施設の職員と家族や親族などの養護者では、虐待が起きる要因に差があります。

高齢者が虐待を受けてしまう背景を見ていきましょう。

虐待の発生に影響を与えたと思われる要因

介護従事者による虐待の発生要因(複数回答) 割合
教育・知識・介護技術等に関する問題 56.8%
職員のストレスや感情コントロールの問題 26.4%
虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等 20.5%
人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ 12.6%
人倫理観や理念の欠如 11.6%
虐待を行った職員の性格や資質の問題 9.2%
その他 1.6%

出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

介護施設で起きる虐待の主な発生要因は、介護職員の教育・知識・介護技術などに関する問題でした。これが全体の半数以上を占めています。

次に挙げられるのが職員の心の問題です。

ストレスや感情コントロールの問題が約27%虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等は、全体の約2割。人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ、人倫理観や理念の欠如、虐待を行った職員の性格や資質の問題は、それぞれ全体の約1割という結果になりました。

一方、近親者などの養護者による虐待の発生要因は、非常に多岐に渡ります。養護者の心模様や家族関係、他人に頼れない性格、生活習慣、依存症などがあぶり出される内容です。

回答が多かった虐待の要因を紹介します。

家族や親族による虐待の発生要因(複数回答) 割合
虐待者の性格や人格(に基づく言動) 54.2%
被虐待者の認知症の症状 53.4%
虐待者の介護疲れ・介護ストレス 48.3%
被虐待者との虐待発生までの人間関係 44.4%
虐待者の精神状態が安定していない 43.3%
虐待者の理解力の不足や低下 41.6%
虐待者の知識や情報の不足 39.9%

出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

虐待を受ける高齢者の介護度にも左右されますが、重くなればなるほど家族や親族だけで介護を継続することの難しさが見て取れます。

認知症を抱える高齢者の場合は、意思の疎通を図ることがだんだん難しくなったり、目を離すことができなくなったりすることで、介護する側の負担が大きくなってパンクしてしまうことが考えられます。

認知症と虐待に関連性

ここからは、虐待と認知症の関連性について見ていきます。

家族や親族から受ける虐待の発生要因で2番目に多いのが認知症によるものでした。

認知症で自立した生活の送れない高齢者は、虐待の程度(深刻度)が厚生労働省の定める5段階評価の3以上が約50%を占め、その深刻度が高い傾向にあることがわかりました。

虐待の深刻度区分は以下の通りです。

深刻度区分 説明
生命・身体・生活への影響や本人意思の無視など
生命・身体・生活に著しい影響
生命・身体・生活に関する重大な危険

出典:『令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果 』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

家族や親族などの近親者で介護をする場合、高齢者の認知症が進んでも進まなくても、身体的な虐待は65%程度以上の確率で起こることがわかりました。また認知症が進むと心理的な虐待は減り、一方で介護放棄は増す傾向が見られました。

近親者による介護の場合は、高齢者の認知症の程度が進んだときも、介護保険未申請・申請中・自立のときも同様に、虐待の深刻度が5段階中4・5の割合が高くなるのが特徴です。それほど家族などの介護において、高齢者が認知症であるかないかは非常に大きな問題であると言えます。

介護施設においては、高齢者の認知症が進めば進むほど身体的な虐待が増えていき、逆に介護放棄や心理的な虐待の割合は減っていくことがわかりました。

なお、認知症の進行度合いを示すランクは下記の基準で判定されます。

認知症高齢者の日常生活における自立度

ランク 判定基準
何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。
日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 
著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする

出典:『認知症高齢者の日常生活自立度』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

虐待の種類

1章・2章で「身体的な虐待」「心理的な虐待」という言葉が出てきました。具体的には虐待の種類にはどのようなものがあるのか、詳しく解説しましょう。

虐待の5つの種類

虐待は、主に5つの種類があります。「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」、そして最後が「介護・世話の放棄・放任」と呼ばれるネグレクトです。

虐待の種類 内容
身体的虐待 暴力的な行為により高齢者の身体に傷やアザ、痛みを与える行為のことです。その他に高齢者が外部との接触を意図的に、または断続的に絶たれてしまう行為のことを言います
心理的虐待 高齢者が精神的に苦痛を与えられることです。例えば高齢者に対し、脅し文句を言ったり、侮辱めいた態度を見せたりすること。その他、高齢者を無視したり、嫌がらせを行ったりする行為のことです
性的虐待 高齢者本人が同意していない性的な行為をすることです。またはそういった性的な行為を強要することだけでも虐待につながります
経済的虐待 高齢者の合意のないままに本人の財産や金銭を無断で使用することです。また本人が希望する金銭の使用を、理由もなく制限することも虐待に当てはまります
介護・世話の放棄・放任 高齢者に必要な介護サービスを利用させず、介護や世話をしないなどの行為です。意図的であるかどうかは問わず、高齢者の生活環境および身体的・精神的状態を悪化させていることが当てはまります

出典:『虐待の種類と程度』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

虐待の程度3つ

虐待の程度は、緊急事態、要介入、要見守り・支援の3つがあります。

虐待の程度 内容
緊急事態 高齢者生命にかかわる危機的状況で一刻も早く介入する必要性がある
要介入 現状を放置すると高齢者の心身に重大な影響が出る可能性があり介入が必要である
支援 高齢者の心身への影響は顕在化していないが、不適切なケアが続き、虐待につながる恐れがある

出典:『虐待の種類と程度』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

それぞれ詳しく見ていきましょう。

緊急事態

高齢者の生命にかかわる重大な危機のことです。

虐待の5つの種類でいうと、身体的虐待、心理的虐待に加え、介護・世話の放棄・放任がある状態を指します。

具体的には、介護に疲れた養護者が、高齢者に対して殴る蹴るなどの暴力を振るうようなこと。または養護者による日常の世話が不十分で、本人が意識不明や衰弱、食べ物が与えられずに栄養失調などを引き起こし、緊急入院をするようなことです。

この場合は、一刻も早く専門職が家庭に介入する必要があります。

要介入

要介入は、現状を放置しておくと高齢者の心身に大きな影響が生じる状況、またはそのような可能性が高い状態を指します。虐待の主な5種類でいうところの、経済的な虐待と介護・世話の放棄・放任がある場合です。

要介入は身近な養護者に何かしらの問題があり、高齢者の介護が上手くできないときに起こる傾向があります。

例えば養護者である息子さんが、介護が必要な母の通帳からお金を引き出し、毎日パチンコ三昧で過ごすなど、生活習慣や依存症の問題を抱える場合です。

そのほかにも、ケアマネジャーが介護サービスの利用を勧めても利用をしない。または食事はコンビニ弁当を高齢者に日に一度のみ与えるという食事習慣の悪化から、高齢者が寝たきりに近い状態まで身体状況が落ちるようなケースを指します。

この場合は、高齢者本人に虐待を受けている自覚があるかないかにかかわらず、専門職による介入が必要になります。

要見守り・支援

要見守り・支援は、高齢者の心身への影響が部分的な状態や、まだその影響が表面に現れていない状況のことです。5種類の虐待のうち、身体的な虐待と心理虐待が見られます。

これは養護者の介護に対する知識不足や、介護負担が増えることで適切でないケアが行われていることが多いと考えられます。例えば、高齢者にパーキンソンの症状が出てきているにもかかわらず、無理に歩かせてしまうような状況です。

また、養護者が思うように動いてくれない高齢者に対し、怒鳴り声を挙げるなどして、高齢者が生きる自信をなくしてしまう状況を指します。

介護施設では身体拘束が禁止されている

介護険施設では、身体拘束が禁止されているのはご存知でしょうか。なぜなら身体拘束も虐待に当たるからです。

もちろん家庭での身体拘束も、高齢者に対して心身への悪影響を与える意味では介護施設と同様に許されるものではありません。

しかし、家庭での介護にはどうしても限界があります。それゆえに自宅で身体拘束なしの介護を続けるには、適切な介護事業者の支援が必要となるのです。

それでは具体的にどのような行為が身体拘束の対象となるのでしょうか。

厚生労働省の「身体拘束ゼロの手引き」によると、以下の11項目が挙げられます。

「緊急やむを得ない場合」の注意点
  • 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
  • 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、四肢をひもなどで縛る
  • 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、または皮膚をかきぬしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋などをつける
  • 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける
  • 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する
  • 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  • 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  • 自分の意思で開けることのできない居室などに隔離する

出典:『厚生労働省 身体拘束ゼロの手引き』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

上記の11項目以外にも、「動かないで!」「立たないで!」「黙って!」「ちょっと待って!」といった、「スピーチロック(言葉による拘束)」も身体拘束であることを覚えておきましょう。

介護者の一方的な強い言い方によって、高齢者の行動に制限・拘束を加えることは、事実上、身体拘束に当たるのです。

例外が認められる3つの要件

身体拘束は禁止されているものの、「緊急やむを得ない場合」に該当する3要件を満たしている場合のみ、例外的な扱いとなります。

それは、その身体拘束に関し、切迫性があるもの、代替性がないもの、一次的なものである場合です。詳しくは以下の通りです。

身体拘束が例外的に認められる3要件

切迫性 利用者本人や他の利用者などの生命または身体が、危険にさらされる可能性が非常に高い場合
非代替性 身体拘束やその他の行動制限を行う以外に、代わりとなる介護方法がない場合
一時性 身体拘束やその他の行動制限が、一時的なものである場合

出典:『厚生労働省 身体拘束ゼロの手引き』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

なお、「緊急時やむを得ない得ない場合」の手続きを行う際に、気をつけるべき注意点が4つあります。

「緊急やむを得ない場合」の注意点
  • 担当職員個人またはチームではなく、施設全体で行えるように、関係者が幅広く参加したカンファレンスで判断する体制を整備する
  • 身体拘束の内容、目的、理由、時間、期間などを高齢者本人や家族に対して十分に説明し、理解を求める
  • 常に観察、再検討し、要件に該当しなくなった場合はただちに解除する
  • 身体拘束の態様・時間、心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録する

出典:『厚生労働省 身体拘束ゼロの手引き』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

身体拘束の悪循環

次に身体拘束の悪循環について、詳しく解説していきます。

例えば、「手術の後だから」「チューブを抜いてしまうかもしれないから」「歩いてしまうかもしれないから」と、さまざまな理由で身体拘束をしてしまうケースがあります。

それによって身体機能が落ちて歩けなくなり、認知症がより進むことで二次的、三次的な障害が、さらなる身体拘束や虐待につながってしまいます

身体拘束は、高齢者にとっても介護をする側にとっても下記の図のような悪循環を生み出します。

身体拘束の悪循環のイラスト。身体拘束→身体機能の低下→周辺症状の増悪→リスクの増大→さらなる身体拘束→身体機能の低下→周辺症状の増悪→リスクの増大→身体拘束…。身体機能の低下:筋力低下、関節の拘縮、心肺機能の低下など。周辺症状の増悪:不安や怒り、屈辱、あきらめなどから認知症の進行や周辺症状の増悪。意識が低下し結果的にADL(日常的活動作)の低下。リスクの増大:拘束しているがゆえに無理な立ち上がりや策の乗り越えなどにより重大な事故がおきる危険性
出典:『高齢者虐待とは』(東京都福祉保健局)よりWe介護編集部で作成

悪循環の発生源ともいえる身体拘束を止めることで、この拘束が生み出す負のスパイラルを断ち切り、高齢者の自立を促進する「よい循環」にしていくことが必要なのです。

身体拘束をしないための方法

それでは、身体拘束をしないためにはどのような方法があるでしょうか。まず大枠で5つの方針を決めることが必要です。

  1. 組織のトップが決意し、施設が一丸となって取り組む
  2. 現場スタッフがみんなで議論し、共通の意識を持つ
  3. 身体拘束を必要としない状態の実現を目指す
  4. 事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援体制をつくる
  5. 身体拘束するケースを極めて限定的にすること。常に代わりとなる方法を考える

組織のトップと職員で連携する

身体拘束をしない決断は事故やトラブルが生じた際に、トップが責任を引き受ける姿勢も同時に問われます。

いくら現場スタッフが拘束廃止に取り組んでいても、上の人間が責任を取らなければ、その組織はまた拘束に向かって逆戻りをします。

施設長をトップに据えて、医師、看護師、介護職員、事務職員で全体的にカバーする体制作りが必要なのです。

それと同時に、事故が起きにくい環境作りも同時に進めなければなりません。手すりをつける、足元に物を置かない、ベッドの高さは低めにするなど、細かい調整を行うことで、起こり得る事故はある程度防ぐことができます。

身体拘束が起きてしまう原因を取り除く

また、施設が向かうべき大枠の意識だけを決めても、スタッフ個人の意識が変わらないと、現場は拘束の方向に戻ってしまいます。問題意識の共有には、高齢者ファーストであることが肝心です。理由もなく拘束していたならば、その理由は何なのか。突き詰めて考えるべきです。

そして、個々の高齢者の心身の状態を、もう一度正確にアセスメントすることが必要です。

高齢者が不安を感じていないか、本人の意思を損ねるケアをしていないか、声掛けが適当か、身体に苦痛を感じていないか、意思表示を的確に介護者が汲み取れているか。これら高齢者の不安要素を取り除くことで、身体拘束は防げるのです。

高齢者虐待防止法とは

2006年に、いわゆる高齢者虐待防止法と呼ばれる法律が施行されたのをご存知でしょうか。正確には、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」というものです。

高齢者虐待防止法の施行翌年の2007年度から、要介護施設従事者による虐待と、家族や親族・同居人などの養護者による虐待について、厚生労働省で毎年調査が行われるようになりました。

それでは、高齢者虐待防止法の中身を見ていきましょう。

通報の義務が法律に組み込まれた

【高齢者虐待防止法の通報義務】努力義務:家族や親族などによる高齢者虐待を発見したものは通報するように努めなければならない。義務:高齢者の命や身体に重大な危険が生じている場合は通報しなければならない。介護従事者は高齢者虐待を発見した場合程度にかかわらず通報しなければならない。※通報などをおこなうことは「守秘義務違反」にはならず解雇や不利益な扱いを受けない。
出典:『Ⅰ 高齢者虐待防止の基本』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

高齢者虐待防止法の注目点は、虐待を見つけたときに通報の義務が法律に組み込まれたことでした。

介護サービス従事者は、自身の働く現場で高齢者虐待を発見した場合、生命・身体への重大な危険が生じているか否かにかかわらず、市町村への通報義務が生じます。

介護サービス従事者は、高齢者介護の専門職であるがゆえに、虐待行為は決して許されないという認識が求められます。

通報者に対する不利益な扱いが禁止に

高齢者虐待防止法ができたことで、通報者が不利益を被ることを防止するためのルールが定められました具体的には以下の2点です。

  • 通報などを行うことは、「守秘義務違反」にならない

  • 通報したことによって、解雇その他の不利益な扱いを受けない

通報は勇気のいる行為ではありますが、介護サービス従事者は専門職として正しい行動が求められているのです。

また、通報の対応は市町村役場の高齢者福祉担当課、地域包括支援センターなどが行います。市町村からの事実確認や指導などあった場合、施設は虐待をした人に対して「してはいけない」と伝えるだけではなく、背景となった原因を分析して再発防止策を練る必要があります。

高齢者本人や家族から訴えがあった場合も、見て見ぬフリをせずに通報し、施設内・事業所内で知識や技術をシェアすることが重要です。施設全体・事業所全体で組織的な取り組みをすることで、初めて個々のスタッフがケアに必要な役割を適切に果たすことができるのです。

家族の負担軽減や支援の必要性

さらに、高齢者虐待防止法では、家族や親族などの養護者に対する支援についても明記されています。家族介護の負担軽減や相談窓口の充実など、介護施設だけでなく、家庭での高齢者虐待も、社会全体で考えていかなくてはならない課題として、介護従事者が中心となって活躍していくことが期待されています。

著者/横山由希路
監修者/高野龍昭


(参考)
令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』(厚生労働省)
令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)』(厚生労働省)
認知症高齢者の日常生活自立度』(厚生労働省)
厚生労働省 身体拘束ゼロの手引き』(東京都福祉保健局)
高齢者虐待とは』(東京都福祉保健局)
Ⅰ 高齢者虐待防止の基本』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

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