複数の障害を持つ人もいますが、日本には、推計で約1,000万人近い障害者がいると言われています。障害とは何か? 障害者を支える仕組みはどうなっているのか? ここでは、普段接している利用者さんをより深く理解するために、介護職のみなさんに知っておいていただきたい、利用者さんと接するときの心構えを解説します。
障害にはどんな種類があるのかを知ろう
高齢者(利用者さん)の中には、要介護状態であると同時に障害を持っている方もいます。介護者(介護職)は、障害の種類や等級についても知っておくことで、利用者さんをより適切にケアすることができます。
みなさんは、障害にはどんな種類があり、障害者はどのくらいいるかをご存じでしょうか。
簡単にいうと、障害には「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つがあります。その種類と内容をまとめてみました。
![障害の種類と内容 以下、種類:手帳と等級:根拠法:内容。身体障害:身体障害者手帳1級~7級。(数が少ないほど重度):身体障害者福祉法:◇視覚障害、聴覚・平衡機能障害、音声・言語咀嚼機能障害、肢体不自由など、第三者からみてわかるような身体の障害。心臓昨日、腎臓機能、呼吸器昨日、膀胱、直腸機能、小腸機能、肝臓機能など、内臓の機能が悪いために不自由な生活を送っている場合も身体障害者手帳を取得できる。(腎不全で透析を受けているなど)。HIV免疫機能障害(エイズ)の患者も身体障害に含まれる。知的障害:療育手帳A~C、1~4など(地域によって異なる):厚生事務次官の通知に基づき、各自治体で要項を定めて運用。:知的障害全般、先天性または出産時ないし出生後早期に受けた障害によるもの。いったん大人になって知的能力が衰えた場合は精神障害で扱う。(高齢者の認知症など)精神障害:精神障害者保健福祉手帳1~3級(数が少ないほど重度):精神保健及び精神障害者福祉に関する法律:統合失調症、気分(感情)障害、非定型精神病、てんかんなどのいわゆる精神障害。中毒精神病(アルコールや麻薬などによる精神障害)。器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)。発達障害(心理的発達の障害、小児期および青年期に生じる行動及び情緒の障害](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/news_09_01-960x999.png)
この表をよく見ると、普段聞き慣れない言葉が多くあるのではないでしょうか。まず身体障害ですが、肢体不自由のような身体の障害だけでなく、心臓病、腎臓病、エイズなどの病気も入っています。これらの病気は「日常生活活動が極度に制限される」場合でないと身体障害に認定されません。なかなかこのことを知っている人は少ないと思います。
精神障害の内容を見ると、発達障害が入っていることに驚く人もいるでしょう。発達障害は2000年頃から診断数が増えてきた「第4の障害」です。まだ独立した障害としては扱われず、精神障害の中に入れられます。2010年に障害者自立支援法が改正され、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害などの人も、精神障害者保健福祉手帳を取得できるようになりました。
令和元年版『障害者白書』(内閣府)を見ると、それぞれの障害者数は次の通りです。複数の障害を持つ人もいますが、私たちの周りには多くの障害者の方がいることがおわかりいただけるでしょうか。
![種類別の障害者数の水(2019年)身体障害者:436万人。人口1,000人あたり34人。知的障害者:108.2万人。人口1,000人あたり9人。精神障害者:419.3万人。人口1,000人あたり33人。](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/news_09_02-960x858.png)
第4の障害とは
すでにある3種類の障害(身体、知的、精神)に次ぐ第4の障害として挙げられているのが発達障害です。脳の発達に生まれつき障害があることを総称して発達障害と言われています。身体障害、知的障害、精神障害とは違い、今のところ発達障害者専用の手帳はありません。発達障害の人は知的障害があれば療育手帳を、そうでなければ精神障害の手帳を取得することで、障害者としての権利を得られます。
障害者を支援する社会の仕組みを知ろう
では、障害者を支援するために、日本にはどのような法律があるのでしょうか。
障害者が受けられるサービスを取り決めた法律に「障害者総合支援法」があります。実は、この法律ができるまで、当事者、家族、福祉関係者は翻弄されてきました。簡単に経緯を述べると、こうなります。
- 2002年度まで
- 自治体が該当者を選んでサービスを提供する「措置制度」。負担は所得に基づく応能負担。
- 2003~2005年度
- 利用者がサービスを選んで事業者と契約する「支援費制度」。負担は応能負担のまま。
- 2006~2012年度
- 身体・知的・精神の3分野が統合された「障害者自立支援法」。負担は1割のサービス費を払う応益負担。
- 2013年~現在
- 1分野に難病患者を加えた「障害者総合支援法」。争点だった自己負担は改善され、原則として応能負担に。
これから福祉のことを知りたい人は、まずは現行の「障害者総合支援法」から学びましょう。
![【障害者総合支援法による支援体制】介護給付(居宅介護・重度訪問介護・行動援護・療養介護・生活介護・自動デイサービス・短期入所・重度障害者等包括支援・共同生活介護・施設入所支援)、相談支援、訓練等給付(自立支援・就労移行支援・就労継続支援・共同生活援助)、自立支援医療等、補助具が自立支援給付として市町村より支援される。都道府県からの支援を受け、地域生活支援事業として理解促進研修・支援などの体制がある。](https://img-kaigo.ten-navi.com/articles/news_09_03-960x1164.png)
地域によってできることとできないことが異なるので、自治体のパンフレットを入手するかホームページを調べると、具体的なサービス内容がわかります。
障害者と接するときの心構えを知ろう
障害者と接するときの心構えを知る前に、障害という漢字についてお伝えしたいことがあります。
みなさんは、障害のことを「障碍」と書かれた文章を見たことがあると思います。「碍」は昔から使われていた字ですが、残念ながら常用漢字に入っていません。そこで厚生労働省をはじめとする官公庁は、公的な文章では障害者という字を使っています(当記事も同じ理由でこの字を使っています)。
当然「害」の字が差別的だと考える個人は多く、「障碍者」と書いたり「障がい者」と書いたりします。常用漢字に制限されない場面であれば、納得のいく字を使ってください。
それでは、障害を持つ方と接するうえでの心構えに参りましょう。もっとも大切なのは、障害者と接するときの態度です。重要なことを列挙しておくので、参考にしてください。
- 健常者と同じように接する
- 障害者総合支援法の理念は、「地域社会における共生の実現」です。できないことはサポートする必要がありますが、あとは健常者と同じように接しましょう。
- 障害者に関係するマークを理解する
- 目に見えにくい障害もあります。助けがほしい人は公共の場でマークを貼ったりバッジを身に付けたりしているので、図形の意味を覚えておきましょう。
- 障害者に関係するマークの一例
さらに、日常的に障害を持つ方と接する方は、次のことも大切です。
- 「障害者差別解消法」を理解する
- 仕事の関係で日常的に障害者と接する人は「障害者差別解消法(2013年6月制定)」という法律をチェックしておきましょう。障害者差別解消法とは、役所や会社やお店が、障害を理由に差別してはならないことを定めた法律です。参考までに、内閣府のサイトにある「障害者差別解消リーフレット」をご案内します。
- 「障害者虐待防止法」を理解する
- 「高齢者虐待防止法」と同じように、「障害者虐待防止法(2011年6月制定)」もあります。こちらもチェックしておきましょう。主な規定は「虐待発見者の通報義務」ですが、虐待した加害者には「刑法」が適用されます。
介護者(介護職)は、要介護者が同時に障害者でもあることを意識し、障害を持つ部分を特にていねいにケアする必要があります。また、外出介助をしているときなど、障害者の権利を守る行動を取りましょう。要介護者の権利は、接する側の心構えによって守られるのです。
著者/東田勉
(参考)
『障害者手帳について』(厚生労働省)
令和元年版『障害者白書』(厚生労働省)
平成29年版『障害者白書(全体版)』(厚生労働省)
『障害者に関係するマークの一例』(内閣府)
『発達障害と障害者手帳』(株式会社Kaien)
『完全図解 介護のしくみ 改定新版』東田 勉 (著)、三好 春樹 (監修)、2013年(講談社)P49