通院介助と外出介助の料金 | ヘルパーに頼むと自費になることがある理由を解説

通院介助は介護保険が適用される、と思い込んでいませんか? 実は、通院介助は自費サービスになることも少なくありません。また、外出介助でも「え、これ介護保険が適用されないの!?」といったことはよくあります。この記事では、通院介助と外出介助を介護保険サービスとして利用したいときに気をつけたい注意点や、介護保険がどこまで適用されるのかをQ&Aを踏まえて解説していきます。

通院介助とは

通院介助とは、「利用者さんが医療機関に通院するための移動の介助」を指します。通常、この通院介助は、介護保険制度のなかでは訪問介護の職員(ヘルパー)が行うサービスとなっています。

訪問介護の職員の方のなかには、利用者さんに「1人で病院に行けないから、連れて行ってもらえませんか」と相談されたことがある方も多いと思います。

ここで「介護保険サービスで対応できます」と安易に利用者さんに答えてしまうと、後々になってトラブルになることがあります。

なぜなら、介護保険のサービス(保険給付)として通院介助を利用・実施するには、いくつかの条件があるとともに、市町村によって対応が分かれることもあるからです。

利用者さんに間違った説明をしてトラブルにならないためにも、ぜひ制度の詳細を知っておきましょう。

要支援者の場合

要支援1~2の認定を受けた利用者さんは、介護保険制度のサービスとして通院介助を実施することが非常に困難です。

その最大の理由は、要支援1~2の方の訪問介護は、介護保険制度の予防給付ではなく、市町村事業の介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)で実施されるためです。

【単語チェック】介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)

地域包括支援センターや市町村窓口などで、要介護認定には該当しないものの、生活の困りごとなどがある方には基本チェックリストというものを実施するケースがあります。これにより、要介護認定に非該当だった方でも、訪問介護などを「総合事業」として受けることができます。そのほか、要支援1~2の方の訪問介護やデイサービスなども、この総合事業に該当します。

この総合事業は、「自立支援」のために実施されるという特徴があります。「できることは自分で」「できないことだけを手伝う」「できないことが自分の力でできるようになる」ための自立支援が総合事業の原則なのです。

そのため、要支援などの軽度の状態の高齢者であれば、外出そのものは自分でできるケースも多く、通院介助をヘルパーが行うということが認められにくいという側面があります。また、その可否の判断は市町村によって異なることも多いのが実情です。

したがって、要支援者・事業該当者の方は、ケアプランを作成してくれる地域包括支援センターや市町村の担当者に通院介助を訪問介護で利用できるかどうか、あらかじめの相談・照会が必要でしょう。

どうしても通院介助を訪問介護に頼みたいという場合、介護保険制度外のサービス(全額自己負担の有償サービス)として利用することが可能な場合もあります。この可否については、訪問介護事業所に相談をすることをおすすめします。

要介護者の場合

要介護1~5の認定を受けている場合であれば、区分支給限度基準額の範囲内で比較的自由にケアプランが作成できますので、通院介助をヘルパーに頼むことは、要支援者や総合事業対象者の場合よりも利用は容易可能です。

ただし、そもそも訪問介護は、利用者の「自宅のなか」でのサービス提供を想定しています。そのため、屋外の移動などの介助が主となる通院介助には、さまざまな制約があります。

訪問介護のサービス区分

訪問介護では介助の内容によって「身体介護」と「生活援助」というサービス区分に大別されます。この2つで算定される介護報酬も異なります。

通院介助は、このうち「身体介護」にあたります。

「身体介護」
食事介助 排泄介助 移乗介助
入浴介助 歩行介助 更衣介助
通院介助 外出介助…など

「生活援助」
調理 掃除 洗濯
買い物…など

ここでポイントなのが、「身体介護」は、体に触ったり、手を貸せるように見守る介助であることが算定の基準となっています。

通院介助については、詳細な厚生労働省の通知によると、次のような業務を指すものと規定されています。

【1-3-3 通院・外出介助】

  • 声かけ・説明→目的地(病院等)に行くための準備→バス等の交通機関への乗降→気分の確認→受診等の手続き
  • (場合により)院内の移動等の介助
老計第10号「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について』より

この内容以外の行為は原則として訪問介護の通院介助では実施することができません。

「この内容以外」とは、例えば移動中の介助や診察待ちの時間の付き添いが該当します。また、院内の移動の介助にも制約があります。

【通院介助】よくある疑問Q&A

Q1:通院介助の移動中は介護保険の適用外なの?

A:移動手段や自立度によっても異なります

病院に行くとき、車椅子をヘルパーが押す、もしくは利用者が歩いているのをヘルパーが転倒しないように横で見守る(支える)のであれば「身体介護」になり、その時間は介護保険として算定できます。

しかし、家を出てすぐタクシーに乗るということであれば、乗車中は「身体介護」として算定することができません。

公共交通機関を利用しているときも、利用者が座っていて特に介助が必要なければ、介護保険として請求することができません。

また、そもそも1人で歩くことができて何の問題もないのであれば、一緒に歩いていても算定外です。

Q2:病院のなかの介助は介護保険の適用外?

A:病院のなかでの介助内容によります。例えば、トイレや移動時の介助については介護保険の適用となり、介護報酬も算定可能です。

病院内の付き添いも、介護保険が適用され介護報酬が算定できるのは介助が発生しているときだけになります。

そして、その前提として、そもそも病院内の移動などの介助は「介護保険」ではなく「医療保険」の範疇であり、医療機関側が行うべきという考え方になります。

そのため、どの病院でもヘルパーが「介護保険」で院内介助ができるとは限りません。あくまでも、病院のスタッフが介助できない場合だけ、ヘルパーが「介護保険」として算定することが可能となります(ただし、都道府県や市町村によって判断は異なります)。

病院の介護保険の適用範囲 「院内介助を病院スタッフが行う 介護保険適用外」 病院スタッフが介助できない場合 院内介助をヘルパーが行う 介護保険適用可能 ※トイレ介助や移動介助のみ算定可能

病院内の介助を誰がして、どちらの保険が適用されるのかどうかについては、ケアマネジャーが事前に病院と相談・調整をしておくのが一般的です。

多くの場合、ヘルパーが院内での介助ができたとしても、トイレや移動時の介助のみを介護保険の適用としてその時間のみを介護報酬として算定し、診察時や会計待ちで座っている時間は介護保険適用外となります。

付き添うヘルパーは、身体介護をした時間・していない時間をそれぞれ分けて、その時間を「分単位」で記録に残すことになります。

Q3:ヘルパーの交通費は誰が負担するの?

A:利用者さんが負担します

公共交通機関などを利用して通院介助を行う場合、ヘルパーの交通費は利用者さんが負担するのが基本です。

ただし、これは介護保険制度で決まっているわけではなく、訪問介護の事業所がそれぞれの対応方法を定め、それを事業所が事前に書面などで説明します(※自費サービスの内容や時間も同様です)。

「すべての介助に介護保険が適用される」と思っている利用者さんと、事前の説明をせずに「これは自費で払うことが当然だ」という事業所の姿勢により発生するトラブルは、非常に多いです。

さらに、間に立った介護職がよくわからないまま、あいまいな返答をするとさらに大きなトラブルになる可能性があります。

Q4:介護タクシーは保険適用される?

A:介護タクシーの運賃に、介護保険は適用されません。また、基本的には移動中の介助にも介護保険は適用されません。

「介護タクシーは介護保険が使える」と思っている介護職の方も少なくありませんので、上記はぜひ頭に入れておきましょう。

介護保険制度の訪問介護のサービス区分には「通院等のための乗車・降車の介助」があるため、それを適用して、訪問介護員の資格を持った運転士などが乗降介助や通院の介助、一部は院内の移動などの介助を行っている介護タクシーもあります。ただ、それを実施している事業所はさほど多くありません。

介護タクシーは、介護を必要とする人を乗せる器械を装備していたりする分、料金が一般的なタクシーよりも割り増しになっているケースがあります。もし普通のタクシーで事足りる方なら、そちらの利用も検討しましょう。

Q5:寄り道は介護保険の適用外?

A:原則は適用外です。市町村によって詳細は異なるので、事前に確認しましょう

通院のついでに買い物や銀行に寄ってもいいのではないか、と考える利用者さんも多いかと思いますが、介護保険制度では、通院介助の際の「寄り道」は認められていません。

市町村によっては、通院後に、処方された薬を薬局に取りに行く場合のみ許可されているケースもあります。

市町村によって考え方は違うので、帰り道にどこかに寄ろうとするなら、ケアマネジャーがあらかじめ必ず市町村に確認しておくことが必要です。

外出介助とは

外出介助とは、外出するときの介助のことです。介護保険制度で認められる外出は、そこに行かないと生活に大きな支障がある場所です。

先述した通院介助は、外出介助に含まれます。通院介助と同様、外出介助は法令上の規定が厳しいので、いつでもどこでも利用できるわけではありません。

外出介助の介護保険の適用範囲は?

介護保険の制度内で、外出介助として認められる項目を下記にまとめました。

外出介助で介護保険が適用できるもの…日用品の買い物、銀行、選挙、市役所

この適用範囲の詳細は、市町村によっても異なります。例えば、東京都港区では下記のように指定されています。

適切なサービス 不適切なサービス
日用品の買い物 日用品以外の買い物
通院(原則、病院内の介助は除く) 冠婚葬祭への出席
官公署への届出 お祭りなど地域の行事への参加
家族への見舞い※ただし、頻繁でない場合に限る 外食
通所介護事業所や介護保険施設の見学 友人宅への訪問
パチンコやカラオケ

※出典『介護保険サービスの正しい利用法』(港区保健福祉支援部介護保険課)

通院介助以外で、介護保険として利用できる外出介助の例として多いのは、日用品の買い物です。ただし、あくまでも近くの店で、生活するのに必要なものの買い物だけが介護保険の適用内として認められます。

その他には、銀行などの金銭にまつわる外出、市役所などへの手続き、選挙などが挙げられます。

こういった目的の外出介助であれば、ケアマネジャーの判断でケアプランに入れることも可能なのですが、それ以外は実際には難しくなってきます。

新型コロナのワクチン接種のための外出介助は介護保険が適用される?

訪問介護を利用して、新型コロナウイルス感染症のためのワクチン接種に行く場合、介護保険が適用されます。ただし、移動手段によっても適用範囲が異なるため注意しましょう。

公共交通機関を利用する場合、 訪問介護の「通院・外出介助」を介護保険として適用できます。

ヘルパーなどが車を運転する場合、訪問介護の「通院等乗降介助」を介護保険として利用できます。

それぞれ、一定の条件下で、所要時間に応じて身体介護として算定できます(※ヘルパーが運転する場合、運転時間を除く)。

詳しくは、厚生労働省の『介護保険最新情報のVol.963』でご確認ください。

【外出介助】利用者さんから多い要望とは

外出介助は、同じ目的のための外出であっても、介護保険が適用されるかどうかは市町村によって見解が異なります。

ここでは、利用者さんから相談されることの多い外出介助の要望を例として挙げました。

  • 散髪
  • 補聴器の購入
  • 老眼鏡の購入
  • 散歩

それぞれ、外出介助ができるかどうかをみていきましょう。

散髪

利用者さんやご家族から、「ヘルパーに散髪に連れて行ってほしい」と希望されることばよくあります。

しかし、散髪は、訪問理美容もしくは散髪が来るデイサービスを利用が推奨されており、厚労省のQ&Aでも認めないと明言されています。

補聴器・老眼鏡の購入

補聴器を作りに行くのにヘルパーの連れて行ってほしいという希望があったときについても、判断は市町村に委ねられます。医師の指示がある場合は認められるケースもあるようです。

老眼鏡を作り直すことについても、市町村によって見解が違います。そのため、必ずケアマネジャーが確認します。

散歩

基本的には散歩の同行も認められていません。ただし、認知症で徘徊される方への付き添いは、一定の条件下で算定できるのが一般的です。

まずはケアマネジャーに確認しよう

介護職が「通院介助(外出介助)には介護保険が適用できます」と言ってしまったにもかかわらず、実は介護保険では対応できなかった場合、利用者さんやご家族からクレームにつながるといったトラブルはよくあります。

普段かかわってくれている介護職を、利用者さんはとても信頼しています。そのため、ケアマネジャーがいくら「介護保険は適用できません」と説明しても、なかなか納得してもらえないケースもあります。

実際に、説明を重ねても納得してもらえず、ケアマネジャーが通院介助や外出に付き添うといったケースも少なからずあります。

また、利用者さんごとに区分支給限度基準額を超えないようにケアプランを作成する必要があるため、介護保険の制度としては可能なことでも、ケアプランに加えるべきかどうかはケアマネジャーと一緒にが検討することが必要です。

そのため、自分の提供するサービス以外のことで何か聞かれたら、その場では答えずに、必ずケアマネジャーに相談・確認するようにしましょう。

著者/草野はな
監修者/高野龍昭
イラスト/アライヨウコ

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