2021年度介護報酬・基準改定の大きなポイントは、自立支援や認知症対応などのテーマに新型コロナウイルスの感染拡大などへの緊急対応がプラスされたことです。今改定の内容の掘り下げはもちろん、介護報酬とはそもそも何か、これまでどういう改定が行われてきたかを解説します。
介護報酬・基準とは?基本知識をおさらい
介護保険から出されるお金は、サービス提供にかかる費用として事業所・施設に支払われます。現場での働く人の給料なども、ここから捻出されます。
では、どんなサービスにいくら支払われるのか、これを定めたのが「介護報酬」です。単位数で定められ、1単位あたりの金額は地域によって異なります。
介護事業者は、原則、サービス利用料の9割を介護給付として国保連(国民健康保険団体連合会)から受け取り、1割を利用者に請求します。
また、事業所・施設が介護報酬を受け取るには、国が定めたサービス提供のルールを守らなければなりません。これを「基準」といいます。基準には、人員、設備、運営にかかるものがあり、これを満たさないと、介護報酬が減額されるなどの処分を受けます。
この介護報酬・基準は、現場関係者や有識者からなる審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)による検討などを経て、原則として3年ごとに見直されます(この他に、消費税アップなどに対応した臨時的な見直しもあります)。
これまでの介護報酬改定では何が変わった?
2000年4月に介護保険制度がスタートしてから20年が過ぎました。この間、(臨時的な見直しを除いて)介護報酬・基準は6回見直され、今年2021年4月の見直しで7回目となります。
これまで、どんなテーマで改定が行われてきたのでしょうか。一覧の表にまとめました。
大きなテーマは「増え続ける社会保障費をどう抑えるか」
見直しの内容は、その時々で制度が直面する課題への対応が中心です。
何より大きなテーマは、高齢者が増え続ける中で、介護保険の利用者も急速に伸びてきたことです。利用者が増えれば、サービス費用も増えます。その費用増を支えるために国の予算を増やす必要があるわけですが、同時に国民の保険料も引き上げなければなりません。
これらの費用の問題を解決するために、これまでどのような改定が行われてきたのでしょうか。
特に注目すべき改定が行われた2006年(一部の施行は前倒し)、2012年、2018年の内容を振り返ります。
2006年4月の改定では、介護予防強化と施設給付が一部カット
介護給付費の抑制という課題に対して課題に対して2006年4月(一部2005年10月)に取られた策が以下の2つです。
- 要介護者を増やさないこと
- サービス費用の一部を給付から外すこと
①要介護者を増やさないことについては、要支援認定を受けた人を対象に、要介護にならないことを目指した介護予防サービスが誕生しました。
②サービス費用の一部を給付から外すことについては、2005年10月に介護保険施設の居住費・食費(低所得者については一部)が給付から外されました。
2012年4月から進む「重度化させない」という取り組み
高齢化がさらに進めば、「要介護にしないこと」を目指すだけでは限りがあります。そこで、「要介護になっても、できるだけ状態を悪化させない」という自立支援・重度化防止の取り組みに、報酬上の加算などを集中させることになりました。
ちなみに、「加算」というのは、国が示す特別な取り組みを実施した場合に「上乗せ」される報酬のことです。こうした「加算」による対応は、2012年4月の改定から増えていきました。加えて2015年4月には、基本報酬が引き下げとなり、加算の取得に取り組まないと事業所収入が大きく落ち込むことになりました。
2018年4月で広がった「重度者対応と医療との連携」
高齢化の影響は、介護だけでなく医療にもおよびます。たとえば、高齢者の長期入院が医療費を膨らませる中で、「状態が重い人でも、できるだけ地域で生活してもらうこと」に国は力を入れました。地域包括ケアシステムと言われる仕組みです。
状態の重い人が病院から地域に移るとなれば、介護も(看取りまで視野に入れた)重度者への対応に力を入れなければなりません。その際には、医療との連携も必要になります。
こうした重度者対応や対医療連携の強化が、やはり2012年4月から2015年4月の改定で少しずつ進み、2018年4月の改定で大きく広がりました。
長年の介護業界の課題「人材不足」
介護業界のかねてからの問題は、積み重なる課題に取り組むだけの介護人材が足りないことです。そのために、2012年4月から介護報酬に「介護職員のための処遇改善」を目的とした加算が生まれ、(臨時の改定を含めて)たびたび上乗せが図られてきました。2019年10月の臨時の改定では、介護職員以外の従事者にも処遇改善がおよぶ加算が設けられています。
2021年介護報酬改定の注目ポイント「新型コロナ」「LIFE(CHASE)」「人材不足」
今回の改定の中から、特に注目したいポイントは3つです。
それでは3つのポイントを1つずつ見ていきましょう。
ポイント1.感染症対策や業務継続の取り組みを全サービスで義務づけ
1つ目のポイントは、新型コロナをはじめとする感染症への対応の強化です。同時に、感染症のほか自然災害なども含め、非常時でも社会に必要不可欠な介護サービスをできる限り継続させるための体制も強化しなければなりません。
これらの課題について、全サービスの基準上で普段からの取り組みを義務づけました。具体的には、事業所・施設内で取り組みについて話し合う委員会を開催したり、従事者に対する研修・訓練(シミュレーション)を行なうことです。また、非常時のサービス継続に向けた計画(BCPといいます)の作成も必要となります。
なお、これらについては、3年の経過措置が設けられています。
ポイント2.新データベース「LIFE」を活用した科学的介護を推進する加算・基準
2つ目のポイントは、自立支援・重度化防止です。
もっとも大きなポイントは、科学的介護の推進です。具体的には、利用者の状態やケアの実績を収集するデータベースが整備され、現場から情報提供を求めたり、データベース情報を現場のケアに活かすための仕組みが設けられたことです。
このデータベースはCHASE(チェイス)およびVISIT(ビジット)といい、2021年4月からは「LIFE(ライフ)」に一体化されています。このLIFEへの情報提供やフィードバック情報の活用を要件とした新加算が誕生しました。これを科学的介護推進体制加算といいます。
また、それまでの自立支援・重度化防止系の加算(個別機能訓練加算や口腔機能・栄養改善にかかる加算など)でも、LIFEとのやり取りを要件とした新区分などが設けられました。
さらに、上記のような加算を算定していない事業所・施設でも、LIFEの情報を現場のケアに活用することに「努めること」とする基準改定も行われています。
※CHASE(LIFE)について詳しい解説はこちら「【最新】CHASE、VISIT、LIFEをわかりやすく解説|2021年度介護報酬改定で加算も決定した科学的介護のいま」
ポイント3.人材不足に対応したICT等の活用による業務効率化
3つ目のポイントは、やはり人材不足への対応です。今回の改定で特に力を入れているのが、ICTなどのハイテクを活用し、従事者1人あたりの業務効率を上げることです。
たとえば、多くの加算要件や基準で義務づけられている「多職種等による会議」などについて、原則としてICT(テレビ電話機能など)での開催が可能となりました。
また、センサー等の見守り機器やインカムなどを活用した場合に、一部加算での職員の配置要件や、夜勤職員の配置基準が緩和されました。ただし、審議会では、こうした緩和策が「かえって従事者負担を増やす」という懸念の声も上がりました。そこで、「職員の十分な休憩時間の確保」など安全対策に向けた取り組みも義務づけています。
【図でわかる】2021年介護報酬改定の全体像
それぞれのポイントを解説する前に、今改定の特徴を把握するための考え方「縦軸」「横軸」を説明します。
2021年4月の介護報酬改定では、それまでの改定で目指されてきたテーマが引き継がれています。
そのテーマというのが以下の4つです。こうした対応を、「縦軸」としましょう。
目指しているのは2025年、いわゆる団塊世代(戦後でもっとも出生数が多かった世代)が全員75歳以上を迎える節目です。
こうした世代が利用者の中心になってくれば、自立支援・重度化防止も、重度者への対応も、それに応じた人材不足への対策も、さらにグレードアップしなければなりません。
ところが、ここへきて突発的な課題も生じてきました。その課題というのが以下の2つです。これらを「2025年に向けた「縦軸」としましょう。
もっとも大きいのは、言うまでもなく2020年初頭からまん延し始めた新型コロナ感染症への対応です。
また、近年では自然災害が多発したり、従事者による高齢者虐待が過去最高を記録するなど、サービス継続を脅かす課題がやはり山積みとなっています。
こうした課題への対応が、「横軸」として差し挟まれたことになります。
3章で挙げた「新型コロナ」「LIFE(CHASE)」「人材不足」の3ポイントを含め、全体としてどのような改定が行なわれたのでしょうか。「縦軸」「横軸」のテーマごとに分けて掘り下げましょう。
地域包括ケアシステムのさらなる強化【縦軸①】
看取りの推進に向けて、今改定では、看取り系加算の算定の期間を延ばし、看取りケアの充実を図りました。また、看取りに際しては、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスにガイドライン」に沿った取り組みを求めています。
さらに、看取り期でサービス実績がないままで亡くなったケースでも、居宅介護支援費の算定が可能となりました。それまでの相談援助の手間を評価したわけです。
その背景にあるのは、国が推し進める、地域包括ケアシステムの構築・推進です。どんなに重度化しても、住み慣れた地域でその人らしい人生を全うする──これが地域包括ケアシステムのビジョンです。高齢化が進む中では、地域での看取りも重要になります。
また、「最期までその人らしく」を実現するうえでは、認知症ケアのさらなる充実も必要です。その方策の一つとして、介護現場の認知症ケアの底上げを図るために、無資格で利用者対応にあたる従事者に認知症介護基礎研修の受講が義務づけられました(3年の経過措置あり)。
自立支援・重度化防止の推進【縦軸②】
自立支援・重度化防止の推進に関しては、先に述べた「科学的介護の推進」が柱となります。これに加えて、以下の2つのポイントについて強化が図られています。
1つは、口腔機能や栄養改善の取り組みです。報酬上では、両者を一体的に評価するしくみが誕生したり、アセスメントを強化する加算が設けられました。
また、これまでの口腔・栄養ケアにかかる加算の一部を廃止して、評価を基本報酬に組み込むという見直しも図られました。基本報酬に組み込むということは、それまでの加算の要件を、すべての現場で「基準」として義務づけることを意味します。
もう1つは、ケアの結果を問う「アウトカム評価」が拡大したことです。
具体的には、ADLのアウトカムを評価したADL維持等加算の対象サービスが広がったほか、褥瘡マネジメント加算や排せつ支援加算で新たにアウトカム評価が導入されました。
現場の人材不足への対応【縦軸③】
働き方の改善として、具体的には、全ての事業所・施設を対象に、従事者へのハラスメント(パワハラ・セクハラ)防止の取り組みが基準上で義務づけられました。
人材不足の解消を図るためには、業務を効率化する一方で、限られた人材がリタイヤしないような配慮も欠かせません。つまり、現場での「働きやすさ」の向上が求められるわけです。
また、各種処遇改善加算の要件となっている職場環境等要件(働きやすい職場環境のための要件)の区分が、3区分から6区分に拡大されました。2022年度からは、6つの区分から各1つ以上の取り組みを行なうことが必要になります。
制度の持続可能性に向けた給付見直し【縦軸④】
利用者が依然として増え続け、国民が負担する保険料額はますます高まっています。そうした中では、算定されていない(あるいは必要性が低くなった)加算の整理や、サービスの効率化を促すために基本報酬の見直しが必要です。
まず、加算の整理として、小規模多機能型居宅介護事業所連携加算や、介護医療院の移行定着支援加算が廃止に。そして基本報酬の見直しとして、1年を超える介護予防の訪問・通所リハビリに減算が適用されます。
また、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で、利用者を囲い込んで過剰なサービスを提供するといったケースが問題となっています。このチェックを強化するため、サ高住利用者で区分支給限度基準額の割合が高いケアプランを点検する仕組みも導入されました。
感染症・災害発生時の対応について【横軸①】
次に「横軸」となるテーマですが、まずは感染症や災害時への対応です。
すでに述べたように、感染症対策や災害時も含めた業務継続については、全サービスを対象に「普段から取り組むべきこと」が基準で定められました。
加えて、通所系や施設系などでは、災害時を想定した訓練に際して、地域住民の参加が得られるように普段から連携を深めることに「努めなければならない」としました。
問題は、感染症の拡大や災害発生時には、サービスによって大きな利用者減が生じることです。これによって収入が減少すれば、サービス継続もままなりません。
そこで、特に大きな利用者減が見込まれる通所系サービスに、基本報酬の算定についての新ルールが設けられました。それは、延べ利用者数が減少した月を基準として、事業所規模別の報酬区分が算定できるというものです。また、利用者が減少した月の実績が一定以上落ち込んだ場合には、さらに報酬が上乗せされるしくみもあります。
虐待防止や介護事故防止などへの対応【横軸②】
高齢者への虐待防止に関しては、全サービスの運営基準で新たな義務が定められました。
- 委員会の開催
- 指針の作成
- 従事者への定期的な研修
さらに①~③を進めるための担当者の配置が求められます(3年の経過措置あり)。
一方、介護事故の防止と発生時の適切な対応については、施設系サービスを対象とした基準改定が行なわれました。もともと改定前から、虐待防止と同様に委員会開催や指針の作成、従事者への研修は定められていましたが、ここに「担当者の配置」が加わりました。
基準上の措置が講じられていない場合には、1日単位での減算(安全管理体制未実施減算)が適用されます(6ヵ月の経過措置あり)。逆に、施設内に安全対策部門を設けるなど、基準以上の取り組みをした場合には、加算(安全対策体制加算)が算定されます。
主な加算の見直し一覧
今回の改定で新設あるいは見直された加算の中から、多くのサービスに共通するなど、現場の従事者として注目しておきたいものをピックアップしました。
看取り系加算の見直し
見直しの対象となる加算は、以下の4つです。
- 特別養護老人ホームの「看取り介護加算Ⅰ・Ⅱ」
- 介護老人保健施設の「ターミナルケア加算」
- 特定施設入居者生活介護の「看取り介護加算」
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム。短期利用除く)の「看取り介護加算」
改定前の①~④の加算は、「利用者の死亡日前30日」からの算定となっていました。これが、今改定では「死亡日前45~31日」という区分が新たに加わりました。
また、③特定施設入居者生活介護の「看取り介護加算」については、「看取り期において、夜勤または宿直で看護職員を配置した場合」に、報酬単位が(新区分Ⅱとして)上乗せされます。
認知症専門ケア加算の見直し
中重度の認知症の人(認知症日常生活自立度Ⅲ以上)が利用者の5割以上で、認知症の専門研修を修了した担当者を配置した場合に、認知症専門ケア加算が算定されます。
改定前の対象サービスは、施設系や短期入所系、居住系でした(通所介護等については、該当する加算として認知症加算があります)。ここに訪問系サービスが加わりました。具体的には、訪問介護、訪問入浴介護、定期巡回・随時対応型、夜間対応型訪問介護です。
なお、要件となっている「認知症の専門研修を修了した担当者」について、今改定では「認知症ケアに関する専門性の高い看護師」も加えられました。
科学的介護推進体制加算の新設
一体化されたデータベース「LIFE」への情報提供と、「LIFE」の分析結果についてPDCAサイクルを通じて現場のケアに活かすことを要件としたのが、科学的介護推進体制加算です。
提供される情報としては、利用者の日常生活自立度のほか、以下の5つです。
- ADLの状況
- 口腔・栄養の状況
- 認知症の状況
- 疾病の状況
- 服薬の状況
加算対象となる全サービスで必須となるのは、①~③です。この情報をLIFEとやり取りすることで、1月につき40単位が加算されます。
また、特別養護老人ホームで①~④、その他の施設系で①~⑤の情報をやり取りした場合、報酬の高いⅡが算定できます。前者では月50単位、後者では月60単位となります。
生活機能向上連携加算の見直し
外部のリハビリ職等と連携して、利用者の自立支援の強化を図ることを目的とした加算です。当初の対象は訪問介護だけでしたが、2018年の改定で通所介護や短期入所生活介護、居住系、小規模多機能系、特別養護老人ホームなどにも広がりました。ただし、外部のリハビリ職と一緒に利用者の状態を確認したりカンファレンスを行なう手間が壁となり、算定率がなかなか伸びていません。
そこで、利用者の状態確認をICTで行なったり、訪問系ではサービス担当者会議の前後でカンファレンスを行なうなど、「連携の方法」を効率化することになりました。
口腔・栄養スクリーニング加算の新設
利用者の栄養状態を、(栄養士以外の)介護職でも行える方法で確認することを目的としたのが、2018年4月に誕生した栄養スクリーニング加算です。通所系や居住系、小規模多機能系サービスで導入されています。スクリーニングとは「リスクの把握」を意味します。
ただし、利用者の栄養状態は、「噛む、飲み込む」などの口腔機能と密接にかかわっています。この点から、口腔機能も栄養状態と一緒にスクリーニングすることが目指されました。そこで誕生したのが、口腔・栄養スクリーニング加算です。
両方のスクリーニングを行なった場合には、1回20単位(加算Ⅰ)。口腔・栄養のどちらかのスクリーニングを行なった場合には、1回5単位となります。
アウトカム評価系加算の拡大
アウトカム評価とは、自立支援・重度化防止の「結果」を評価することです。
利用者のADLに着目したアウトカム評価には、2018年4月の改定で通所介護に設けられたADL維持等加算があります。これが、特別養護老人ホームや特定施設入居者生活介護にも拡大されました。同時に、算定する事業者がなかなか増えないことを考慮し、ADLの測定方法など、算定までの手続きの一部を緩和したり、加算単位が引き上げられています。
新たにアウトカム評価が導入されたのが、介護保険施設で設けられている褥瘡(じょくそう)マネジメント加算と排せつ支援加算です。前者であれば、褥瘡リスクがある人に褥瘡が発生していない。後者であれば、おむつ使用から使用なしへの改善、あるいは排尿・排便の状態の改善が認められた──こうした「結果」に応じて加算が取得できるしくみとなりました。
テクノロジー活用系加算の推進
特別養護老人ホームと短期入所生活介護では、夜勤職員を基準よりも手厚く配置した場合に夜勤職員配置加算が算定できます。問題は、どこまで手厚く配置するかという要件です。
これについて、夜間の利用者の動向をチェックするための見守り機器を活用した場合に、プラスアルファの職員配置を緩和する仕組みが導入されています。
今改定では、見守り機器の導入割合を100%としたり、従事者同士が離れていても状況をやり取りできるインカムなどを活用した場合に、プラスアルファの部分がさらに緩和されました。
同様の仕組みは、特別養護老人ホームの日常生活継続支援加算などでも導入されました。こちらは、要件となる介護福祉士の配置割合が緩和の対象となります。
サービス提供体制強化加算の見直し
現場の人材不足が深刻な中、「今いる人材に長く働き続けてもらう」ためのインセンティブ(動機づけ)も図られました。それが、サービス提供体制強化加算の見直しです。この加算は、居宅介護支援などを除くほとんどサービスが対象となっています。
具体的には、より長い勤続年数(7年、10年)の従事者割合を評価した、報酬の高い区分が設けられました。これまでの評価は3年だったので、2~3倍となったわけです。
離島や中山間地域に立地する場合の加算
離島や中山間地域では、他の地域と比較して訪問系サービスでの移動コストがかかります。これをカバーするため、これまでも訪問介護や訪問看護などについて、特別地域加算(所定単位数に+15%)や中山間地域等における小規模事業所加算(所定単位数に+10%)が適用されています。その対象サービスが拡大されました。
訪問系サービスとして、両加算が新たに適用されたのが夜間対応型訪問介護です。また、訪問によるサービス提供が行われる小規模多機能型(看護含む)も対象となりました。
今改定は3年後への布石?2024年介護報酬改定を予想
団塊世代が全員75歳以上を迎える節目となるのが、2025年。その直前の2024年4月に、再び介護報酬・基準の改定期がおとずれます。このタイミングを考えれば、3年後の次の改定では、今回の改定を土台としてさらに踏み込んだ改革が行われると考えていいでしょう。
どのような「踏み込み」が行われるのかを予測しましょう。
【予測1】ICTやAIの活用による業務効率化がさらに推進される?
今改定では、ICT等のハイテクを活用した加算要件・基準の緩和などを通じ、業務の効率化を図るしくみが数多く導入されました。科学的介護の推進によってデータベース「LIFE」との連携が進むことも、介護現場へのICT導入を加速させるエンジンとなるでしょう。
次の2024年改定では、業務効率化や科学的介護をさらに推進するために、ICT等の活用を基準上で義務づけるといった踏み込みも考えられます。また、ケアプラン作成にサポート役としてAI(人工知能)を取り入れる動きも進んでいます。これについても、AIをLIFEと連結させながら、あらゆるサービスの計画作成に広げるようになるかもしれません。
【予測2】自立支援・重度化防止に向け、アウトカム評価も拡大?
今回の改定で注目したいのは、アウトカム評価が少しずつ拡大していることです。次の2024年改定で、この広がりが加速するかもしれません。たとえば、口腔機能や栄養状態について、「どこまで維持・改善したか」を要件とする加算が生まれる可能性もあるわけです。
このアウトカム評価については、国も検討会などで「どのような指標が可能か」を模索しています。その中では、ADLなどの身体的な機能だけでなく、高齢者の主観的な幸福感や社会参加の状況などについても指標化に向けた検討が行われています。
【予測3】介護給付外のサービス活用がさらに推進される?
75歳以上の高齢者が一気に増えるとなれば、サービス費用もさらに膨らみ、国民が負担する保険料なども高騰する可能性が高くなります。これを解決するために、2024年改定では「利用者の状態・ニーズによっては介護給付外で対応する」範囲を増やす動きが強まるかもしれません。
今改定では、居宅介護支援の特定事業所加算で「インフォーマルサービスなどが包括的に提供されるようなケアプランを作成していること」が要件に加わりました。また、居宅療養管理指導では、医師等の立場から「地域における多様な社会資源につながるよう留意し、指導・助言を行なう」ことも定められています。
こうした動きは、介護保険外の資源活用を広げる布石と考えられます。
著者/田中元
(参考)
『令和3年度介護報酬改定の主な事項について』(厚生労働省)
『介護保険とは?』(神奈川県国民健康保険団体連合会)