ケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者さんに介護サービスを提供するためのケアプランの作成などを行う、いわば介護保険サービスのスペシャリストです。この記事では、ケアマネジャーの役割や仕事内容、居宅ケアマネと施設ケアマネの違い、必要な資格をわかりやすく解説します。
ケアマネジャー(介護支援専門員)とは
ケアマネジャー(ケアマネ)は、利用者さんがどんな介護保険サービスを受けるかを決めるためのケアプランを作成する専門職です。介護保険制度上の正式名称は「介護支援専門員」です。
ケアマネジャーになるためには、介護福祉士をはじめとする、介護・医療・福祉分野の専門資格を持ち、5年以上の実務経験を経て、介護支援専門員の資格を取得していることが求められます。
介護保険のスペシャリストとして、介護職員、生活相談員、サービス提供責任者など、ほかの職種や行政と連携し、それぞれの利用者さんの状況に合ったケアプランを作成・提案します。
ケアマネジャーは「居宅ケアマネ」と「施設ケアマネ」の2種類
ケアマネジャーは大きく2種類に別れており、居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーは「居宅ケアマネ」、施設で働くケアマネジャーは「施設ケアマネ」と呼ばれるのが一般的です。
居宅ケアマネは在宅介護を受けている利用者さんの支援を行い、施設ケアマネは施設入所している利用者さんの支援を行っています。
→詳しくは3章の「居宅ケアマネと施設ケアマネの主な違い」で確認してください。
※ケアマネジャーの上位職として、主任ケアマネジャー(主任ケアマネ)があります。主任ケアマネは、介護施設や居宅介護支援事業所以外にも地域包括支援センターなどに配置される職種です。
ケアマネジャーの主な仕事内容
ケアマネジャーの主な仕事内容を紹介します。ここでは、基本的に居宅ケアマネを例に見ていきます。

利用者・家族へのヒアリング、ケアプランの作成
ご家族の事情や希望をヒアリングし、利用者さんの要介護度やご家族の状況に合うケアプランを作成します。
介護保険制度は定期的に改定されるので、利用者さんに提供できるサービス内容や料金が変わることもあります。そのため、常に最新の情報を把握しておく必要があります。
サービス担当者会議の開催
ケアプランの原案を基に、利用者さんやサービス提供にかかわる専門職、サービス提供責任者、リハビリスタッフなどを集めてサービス担当者会議を主催します。必要に応じてかかりつけ医も参加することがあります。
利用者さんのご自宅で行うのが一般的です。最近は新型コロナウイルスの感染防止や効率化の観点から、オンラインで実施することも増えてきています。
サービス担当者会議で出た意見を基にケアプランの修正を行い、決定します。
モニタリング
定期的に利用者さんのご自宅に訪問し、必要なサービスが適切に提供されているか、利用者さんやご家族のニーズに変わりがないかなどを確認します。
給付管理
毎月、利用者さんに提供した介護保険サービス実績の内容を、利用者さんと事業者双方に確認し、給付管理票を作成します。
この給付管理票は、利用者さんの自己負担額や事業者が受け取る介護報酬を決めるために使用されます。
要介護認定などの申請手続き支援
ケアマネジャーは、利用者さんやご家族からの要望があれば要介護認定の申請を手伝ったり、市区町村から委託を受けて認定に伴う訪問調査を代行することもあります。
居宅ケアマネと施設ケアマネの主な違い
居宅ケアマネ、施設ケアマネでは、勤務する場所や担当件数に違いがあります。

違っているポイントをそれぞれ詳しく解説します。
勤務する場所が異なる
居宅ケアマネと施設ケアマネはそれぞれ勤務先が異なります。
居宅ケアマネは、居宅介護支援事業所に所属し、在宅介護を受けている利用者さんに対してサービスを提供します。
一方、施設ケアマネは特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)、介護付有料老人ホームなどの介護施設に勤務し、入居する利用者さんに対してサービスを提供します。
担当件数が異なる
居宅ケアマネと施設ケアマネでは、担当する利用者さんの人数が異なります。
担当件数は、居宅ケアマネ1人で担当するのが月に約35件、施設ケアマネが約100件程度です。
居宅ケアマネの場合は利用者さんの自宅に1軒1軒訪問する必要がありますが、施設ケアマネの場合、利用者さんは施設に入居しており訪問の必要がないため、担当できる件数に違いが生まれます。
組み立てるケアプランの内容が異なる
居宅ケアマネと施設ケアマネでは、組み立てるケアプランの内容が異なります。
居宅ケアマネは、訪問介護や訪問入浴、デイサービスなど、利用者さんが必要としているサービスを複数組み合わせ、地域のボランティアなど、社会資源も活用したケアプランを作成します。
一方、施設ケアマネの場合は、施設内にさまざまな専門職が在籍しているので、基本的に自施設で提供しているサービスでケアプランを作成します。

施設ケアマネに比べると、居宅ケアマネはかなり多くの選択肢からサービスを選定し、ケアプランを組み立てる必要があります。
そのため、施設ケアマネから居宅ケアマネにチャレンジする方や、居宅ケアマネからキャリアをスタートさせる人も多く、居宅ケアマネはケアマネジャーの登竜門とも言われます。
ケアマネジャーの給料(平均年収・モデルケース)
介護保険のスペシャリストとして働くケアマネジャーの給料はどの程度なのでしょうか。
平均の年収相場とケアマネジャー4年目の方のモデルケースを見てみましょう。
※令和3年度介護従事者処遇状況等調査、令和3年度介護労働実態調査、令和2年賃金構造基本統計調査、We介護転職の求人情報などをもとに編集部にて算出しています。
ケアマネジャーの平均年収

手当やボーナスを含めたケアマネジャーの平均的な年収相場は340万円~510万円です。現場の介護職の240万円~450万円、サービス提供責任者の330万円~480万円と比べると高い傾向にあります。
ケアマネジャーとして働くためには、介護福祉士や社会福祉士として5年以上の実務経験を積んだうえで、介護支援専門員の資格に合格しなければいけないなど、ハードルがそもそも高い分、給料も高くなるのも頷けるでしょう。
それでは、モデルケースを参考にケアマネジャーの月給を見てみましょう。
ケアマネジャーの月給モデルケース

ケアマネジャー4年目のケースでは、残業代や資格手当も合わせた月給(額面)が32万7,000円で、実際に振り込まれた手取り金額が26万1,000円となっています。
月々の給料は担当件数によっても異なります。また、給料をアップさせたい人は、主任介護支援専門員の資格を取ったり、事業所の管理者の兼務を選択肢として考えてみましょう。
ケアマネジャー(介護支援専門員)になるには? 必要な資格って?
ケアマネジャーとして働くために必要な資格と、資格取得後に必要な研修や手続きについて紹介します。
ケアマネジャーになるための5ステップ
ケアマネジャーになるためには、介護支援専門員実務研修受講試験(ケアマネジャー試験)の受験資格を得たうえで、試験に合格する必要があります。合格後、実務研修を終了し、登録などの手続きを経てケアマネジャーとして働けるようになります。
ここでは、わかりやすく5つのステップで、ケアマネジャーになる流れを解説します。

STEP1.受験資格を得る
まずは、ケアマネジャー試験を受けるための受験資格を満たす必要があります。
受験資格は、介護・医療・福祉分野で下記の国家資格を取得して通算5年以上(従事日数900日以上)の実務経験が必要です。
また、上記で挙げた国家資格を保有していなくても、以下の職種で通算5年以上(従事日数900日以上)の実務経験があれば受験可能です。
自治体によって一部異なることもあるので、各自治体のホームページで確認しておきましょう。こちらから、各自治体の試験概要や実施案内を確認することができます。
STEP2.ケアマネジャー試験に合格する
受験資格を満たしたうえで、毎年10月に各自治体で開催されるケアマネジャー試験に合格する必要があります。
合格ラインは正答率約70%、毎年の合格率は10~20%です。
ケアマネジャー試験の概要や難易度、費用については「ケアマネジャー試験の概要」で解説します。
STEP3.介護支援専門員実務研修を修了
ケアマネジャー試験に合格した後には、都道府県ごとに行われる介護支援専門員実務研修を受講しなければなりません。
例えば、東京都の場合、15日間の講義・演習(87時間)と居宅介護支援事業所で3日間の実習を行います。
STEP4.登録申請・介護支援専門員証の交付申請
介護支援専門員実務研修を終えたら、3ヵ月以内に各都道府県窓口に登録申請を行い、介護支援専門員証を発行してもらいます。
手数料は各都道府県によって異なり、1,500円~4,000円程度です。
STEP5.採用される
実際にケアマネジャーとして働き始めるためには、居宅介護支援事業所や特養などの介護施設でケアマネジャーとして採用される必要があります。
各事業所や施設のホームページ、求人サイト、ハローワークなどで求人があるかを確認し、書類審査、面接などの採用試験を受けることになります。また、いま勤めている施設でケアマネジャーの採用枠があった場合、現場の介護職からケアマネジャーに登用してもらうことも可能です。

厚生労働省の調査によると、実際にケアマネジャーとして働いている人の保有資格でもっとも多かったのは介護福祉士です。現場で経験を積み、さらにキャリアアップを積みたいという方は、ぜひケアマネジャーを目指してみてはいかがでしょうか。
ケアマネジャー試験の概要
ケアマネジャー試験の概要を表にまとめました。
毎年5月下旬頃に試験概要が公表されるので、各自治体のホームページなどで確認しておきましょう。
試験日 | 毎年10月(年に1回実施) |
---|---|
出題数 | 全60問 |
出題分野 | 介護支援分野25問、保健医療福祉サービス分野35問 |
出題形式 | マークシートでの五肢複択形式(5つの選択肢から複数の回答を選ぶ) |
試験場所 | 各自治体ともに数箇所で実施(大学や市民プラザ、研修センターなど) |
受験費用 | 9,000円~1万4,000円程度 |
合格基準 | 正答率約70% |
※各自治体によって異なる場合があります
ケアマネジャー試験の難易度
ケアマネジャー試験は、ほかの介護関連の資格と比べても難易度が高い試験です。
直近5年間の合格率、受験者数、合格者数をまとめました。
年度 | 合格率 | 合格者数/受験者数 |
---|---|---|
2017年度 | 21.5% | 2万8,223人/13万1,560人 |
2018年度 | 10.1% | 4,990人/4万9,332人 |
2019年度 | 19.5% | 8,018人/4万1,049人 |
2020年度 | 17.7% | 8,200人/4万6,415人 |
2021年度 | 23.3% | 1万2,662人/5万4,290人 |
出典:『介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況等』(厚生労働省)
2018年度から受験者数が少なくなっている要因は、2018年にケアマネジャー試験の受験資格が見直されたためです。具体的には、初任者研修や無資格でも一定の実務経験があれば受験可能だったものが変更されたり、保有資格に応じた一部の科目の解答免除が廃止され、全受験者ともに全問回答しなければなくなりました。
ケアマネジャーに向いている人
最後に、ケアマネジャーに向いている人を紹介します。
もし1つでも当てはまっていれば、ぜひケアマネジャーを目指してみましょう。

傾聴力がある
ケアマネジャーの主な仕事であるケアプラン作成、そしてケアプランの見直しの際に重要なのは、なんといっても利用者さんやご家族の状況や要望のヒアリングです。
傾聴力を活かして、利用者さんやご家族が不安に思っていることや求めていることを的確に把握し、ケアプランに反映させていくことが求められます。
また、サービスにかかわる介護職や生活相談員などから意見を聞き、利用者さんの状況を的確に把握する必要があります。そのため、それらの職種の職員と普段から積極的にコミュニケーションを取っておくことも重要です。
勉強熱心である
勉強熱心であることはケアマネジャーにとって大きな資質の1つです。
介護保険制度は原則3年に1回大幅な見直しが行われるほか、細かい運用ルールの変更が必要に応じて不定期に行われます。そのため、使える制度やサービス、利用者さんの自己負担額にもかかわる介護保険の点数など、常に情報をアップデートする必要があります。
また、情報収集という面において特に居宅ケアマネとして働く場合は、地域のボランティアなどの活動にもアンテナを貼っておく必要があります。介護保険サービスだけでは賄えない部分を、ボランティアなどの地域にある社会資源をうまく活用して利用者さんの生活を支えることが求められています。
粘り強さがある
ケアプランを作成し、利用者さんやそのご家族に説明をする際、同意を得るのに苦労することもあります。
「もっとたくさんのサービスを受けたい」「どうしても自宅での生活を続けたい」など、さまざまな要望を受けますが、利用者さんの家庭環境や経済的な状況を考慮するとそれらすべてを叶えることが難しいケースがほとんどです。
利用者さんやご家族によっては、ケアプラン作成や見直しを行う度に粘り強く、かつていねいに説明を続けなければなりません。

ほかにも挙げるとすれば、調整役を担うのが好きな方はケアマネジャーを目指すことをおすすめします。利用者さん、ご家族、介護職、生活相談員(支援相談員)、各種サービス業者など、さまざまな方との間に立つ機会が多いためです。
働きながら試験勉強をするのは大変だと思いますが、やりがいにあふれた仕事です。ぜひ挑戦してはいかがでしょうか。
(参考)
『介護支援専門員』(公益財団法人 社会福祉振興・試験センター)
『(5)居宅介護支援事業所及び 介護支援専門員の業務等の実態に 関する調査研究事業 (結果概要)』(厚生労働省)
『介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況等』(厚生労働省)
『令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果』(厚生労働省)
『令和3年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書』(公益財団法人介護労働安定センター)
『令和2年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)』(厚生労働省)