【訪問介護の事故原因③】ヘルパーの能力向上が困難|事故防止編(第44回)

【訪問介護の事故原因③】ヘルパーの能力向上が困難 | 事故防止編(第44回)

訪問介護は、基本的に1人でサービス提供をする職種です。それゆえに「ヘルパーの能力向上」の面で問題が起こります。

能力付与のための研修を充実させる

訪問介護における事故では、ヘルパーの介護技術が未熟であるために起こる事故が少なくありません。なぜ、ヘルパーの能力の標準化ができないのでしょうか。

【ヘルパーの能力不足による事故とは】訪問介護における事故原因の約8割が、ヘルパーのミス。危険な環境要因で起こった事故、情報不足で起こった事故などあるが、最も多いのがヘルパーの能力不足によるもの。移乗や食事などの介助中に発生し「ヘルパーのミスが原因」として処理されていた事故の中で「環境要因による事故」を除くと、残る原因の多くは「ヘルパーの能力不足」。

事業者に話を聞くと、「能力の高いヘルパーを雇用したいが、人材不足で、技術がなくても雇うしかない」と言います。しかしどの業界であっても、能力の高い職員だけを採用できるわけではないはずです。

そうした状況の中で事業所のサービスレベルが下がらないようにするためには、職員の教育や研修を充実させるしかありません。

ところが、ヘルパーという職業は非常に特殊で、介護から一般的な家事まで仕事内容が多岐にわたります。それにもかかわらず1人で業務を行うので、上手な職員のやり方を参考にすることができないのです。だからこそ、事業者側が能力付与のための研修プログラムを充実させることが求められます。

能力不足のヘルパーに対する指導の現状

訪問介護事業所の事故報告書を分析していると、ヘルパーの能力不足が原因の事故を見かけます。この場合の再発防止策は、ヘルパーに必要な能力を付与することです。

そしてそれは、簡単なことではありません。しかしどの報告書を見ても、「同様の事故が起こらないように指導した」程度の漠然とした内容しか書かれていないのです。これでは十分な対策がとられているとは言えません。

ヘルパーの能力が向上しにくい一番の原因は?

介護施設と訪問介護の場合を比較してその原因となる背景を解説します。

【介護施設の場合】 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング) ができる

介護施設でのOJT(オン・ジャ・ジョブ・トレーニング)のイラスト。先輩が1人新人について、椅子への座り方をレクチャーしています。

入所・通所施設でも、新人は能力が低くて当然です。しかし施設ではたくさんの職員が一緒に働いていますから、先輩の仕事ぶりを実際に見ながら覚えることができます。

最初はほとんど自主的に動けなくても、1年2年と長い時間をかけて、働きながら正しい介助方法を覚えていくことができるわけです。

新人の動きが悪い場合、ベテランがフォローすることで職員の質を保つこともできます。

【訪問介護の場合】いきなり利用者と1対1になりがち

採用されたばかりの訪問介護のヘルパーが、いきなり利用者と1対1で介助を行おうとしているイラスト。

訪問介護のヘルパーは、採用されたら基本的にはすぐに利用者と1対1のサービス提供に入ってしまいます。事業者によっては研修を設けている場合もありますが、未経験のヘルパーが一人前になるまで手厚く指導できる事業者はほとんどありません。

先輩の仕事ぶりを見ながら覚えることができない環境は、訪問介護特有の大きなハンディであることを、事業者は自覚することが大切です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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