介護保険サービスの提供場所が居宅であるために生まれる問題です。安全に介護を行えるよう設計された施設とは違い、一般の家庭には事故につながる危険要因がいくつもあります。
ヘルパーのミスを引き起こす要因は?
数年前に、ある自治体の社会福祉協議会の依頼で、訪問介護事業所の事故報告書を約400枚読んで精査する機会がありました。
このときに大変驚いたことは、その約8割の事故原因が「介助時の不注意」「見守りを怠った」などヘルパーのミスとして処理されていたことです。
私は、「ミスを引き起こした要因は何だったのか」という視点で分析しました。すると、ミスを起こす要因は大きく分けると、次の3つであることがわかったのです。
- 介護環境に潜む危険要因
- 利用者情報(アセスメント)の不足
- ヘルパーの能力不足
こうした 「ミスを引き起こす要因」が放置されたままでは、事故を防止することはできません。
訪問介護は、これら根本原因の除去によるリスクの低減が最大の課題だと言えます。
居宅で見られるおもな危険要因「4つ」
訪問介護での危険要因には、容易に解消できるものから、改善しようのないものまで、以下の4つがあります。
福祉用具をレンタルすることで解消できる危険要因
「ここに介助バーがあればもっと安全に移乗の介助ができるのに」「立ち上がりができない利用者なのに、ベッドではなく布団で生活している」など、これらは福祉用具をレンタルすれば解消が容易です。
簡単な住宅改修工事で解消できる危険要因
比較的簡易な住宅改修で解消できる要因としては、「トイレに手すりがないので、転倒しないか心配だ」「玄関の上がり框に手すりがあったらもっと出入りしやすいのに」などがあります。
比較的大がかりな改修工事が必要な危険要因
「浴室の入り口に30cmもの段差がある」「トイレが狭すぎて排泄介助ができない」「リビングからトイレまでが遠すぎる」など、危険要因の中には大がかりな自宅改修が必要になるものもあります。
改善しようがない構造上の問題がある
「足腰が弱い外出希望の利用者が、エレベーターがない団地の3階に住んでいる」「門から玄関までがあまりに長くて遠い」など、住宅改修等では対応できない要因は改善しようがありません。
居宅は危険要因の改善が難しい場合もある
訪問介護サービスの最大の特徴は、「利用者の居宅で介助や援助を行う」という点です。
在宅生活を維持するうえで利用者にとって大切なサービスですが、一般の居宅の構造は介護に適しているとは限りません。介護施設であれば最初からバリアフリーに設計したり、必要な介護用品をそろえてからサービスをスタートします。
しかし、訪問介護の場合は利用者宅で行いますから、上記イラストのように環境が整っていないことが多いのです。
福祉用具の導入や住宅改修で改善できるものは、ケアマネジャーに相談して改善してもらいましょう。そのためには、家族の理解と協力が不可欠です。それに加えて建物に構造上の欠陥があると、実際には改善できない問題も少なくありません。
このように、環境に危険要因があっても、そう簡単に改善できないことが、訪問介護のおもな事故原因の一つなのです。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています