【通所施設での事故防止策⑦】外出行事中の行方不明事故|事故防止編(第40回)

【通所施設での事故防止策⑦】外出行事中の行方不明事故 | 事故防止編(第40回)

行事で外出中に認知症の利用者がいなくなってしまった場合の対処方法です。その際は、周囲の協力を得ていち早く見つけなくてはいけません。また、どうすればこの事故を回避できるかについても解説します。

事故発生時の状況

デイサービスの外出行事で、近所の有名なお寺にお花見に行きました。職員3名で利用者5名(全員認知症で1名は車椅子)でしたが、あいにく小雨のうえ、混んでいました。

デイサービスの外出行事で近所のお寺を訪れているイラスト。小雨で、混雑しています。

到着して1時間後、午後2時に利用者のTさんがいないことに気づき、職員2名で午後4時まで捜しましたが発見できず、施設と家族に連絡を入れました。

デイサービスの外出行事の際、利用者が行方不明になり捜索する介護職員のイラスト。

結局Tさんは翌日、隣の市で警察に保護されて無事でしたが、家族は市に苦情を申し立てました。

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事故では、過失の有無についてどのように判断されるでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

デイサービスでの外出行事においても、行方不明事故の評価は入所施設と同様です(第31回参照)。

認知症の利用者が行方不明になり事故に遭遇すれば、ほぼ施設側の過失とみなされてしまいます。外出行事は、事前にきちんと対策を立てておくことが大切です。

この事故が過失とされる場合

デイサービスでの外出時に、特定の利用者の見守りを欠かしてしまっているイラスト。職員は他利用者との話に夢中です。

次のような場合、事業者の過失と判断されることがあります。

  • 真冬や真夏、または天候の条件が悪いのに無理に外出行事を行った場合

  • 職員数に対して利用者数が多すぎて、見守りが不十分になった場合
  • 見守りが必要な特定の認知症の利用者の見守りを欠かした場合

こんな事故評価はダメ!

  • 職員は一生懸命捜し、頑張った
  • まさかあんなに遠くへ行くとは思わなかった。想定外だった

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

5名の認知症の利用者に対して3名の職員という職員配置が、ただちに危険とみなされ過失となるわけではありません。

むしろ、小雨のときに混んでいる場所に行ったことに無理があったかもしれません。雨が降った場合は外出を延期、もしくは外出先の変更を検討するべきでした。

天候などの外的な条件が良好でも、利用者を見失う可能性があります。そのとき、施設の応援を頼まずに2時間も外出に同行した職員だけで捜していたことは、きわめて不適切な対応とみなされるでしょう。

行方不明事故は完全に防ぐことが難しい事故ですから、発生することを前提に「発生時に迅速に保護するための対策」をあらかじめ決めておくことが大切です。

こんな原因分析はダメ!

  • 職員の不注意。今後は気をつける

外出先での行方不明事故への基本的な対処方法は?

この事故への対処方法としては以下の2つが考えられます。

管理事務所に協力を要請する

デイサービス職員が、利用者が行方不明になったことを外出先の管理事務所の職員に伝えて応援を求めているイラスト。

外出先で行方不明事故が発生した場合は、すぐに周囲の協力を求めなければなりません。

時間が経過すればするほど、捜索が困難になるからです。

公園ならば公園の管理事務所が、お寺や神社なら寺務所や社務所があります。管理事務所の場所をあらかじめ確認しておくと、何かトラブルが起こった際に迅速に対処できるので安心です。

捜しやすいように、利用者に目印を付けておく

胸元に目印をつけているデイサービス利用者のイラスト。外出時に万が一行方不明になった際に便利です。

利用者の胸元や腕などに、何かしらの目印を付けておくのも有効です。

たとえば、いざというときに公園内の放送設備を使って、「胸にオレンジのリボンを付けたおじいさんが行方不明です。お気づきのかたは、公園管理事務所までお願いします」というように、具体的に特徴を伝えることができます。

事前対策としてできることは?

外出行事を計画する際には、どんなことに気をつければいいのでしょうか。

次の2つを用意するといいでしょう。

  1. 外出行事計画表
  2. 外出行事リスクチェック表

それぞれ解説していきます。

対策1:外出行事計画表を活用する

外出行事では事前の計画が肝心です。外出行事計画表を活用することで、綿密に計画を立てることができます

【介護施設用・外出行事計画業/参加者チェック表の例】下記記入項目。実施予定日・行事担当職員・行き先・使用車両・経路・休憩時間と時刻・出発時刻・到着時刻・滞在時間・帰所時刻・参加人数(利用者・車椅子利用者・職員)・緊急時対応責任者・緊急時搬送先協力医療機関電話番号・携帯品。参加者チェック表には身体状況や家族の了解を得ているか、診察券を持っているかなどを記載する。

対策2:外出行事リスクチェック表を作成する

下のチェック表を参考にしながら、各施設で独自の外出行事リスクチェック表を作成しましょう。対応が難しい項目があれば、計画の見直しや予定変更をする必要があります。

【介護施設用・外出行事リスクチェック表】計画表が作成したか?計画に無理はないか?・混雑していないか?車椅子トイレがあるか?・車椅子スロープがあるか?車両の乗降が安全にできるか?雨天でも車両の乗降が安全にできるか?・歩行が危険な段差などないか?・外食先環境(車椅子スロープやトイレ)食事用具・服薬・とろみ剤などの準備はできているか?・予備の車椅子は準備しているか・携行できるか?・経路は渋滞しないか?・タイムスケジュールに無理はないか?・休憩時間は十分か?休憩場所に車椅子トイレがあるか?水分補給のじゅんびは万全か?・利用者に対して職員の人数は十分か?体調の話対利用者はいないか?家族の了解はとれているか?・家族にリスクに対する説明をしたか?・暑さ・寒さ対策用品、救急箱、バイタルチェック用品は確認したか?・緊急時搬送先協力医療機関は受け入れ可能か?緊急時の施設からの支援対応者は決まっているか?・かかりつけ医の診察券は携行しているか?・点呼の担当者は決まっているか?・出発・休憩・現地到着・現地出発・帰所時の点呼確認

計画にこだわらず、天候や体調で臨機応変な対応をする

外出行事はよい気分転換になりますし、利用者の体力維持にも効果的です。しかし施設内で生活しているより、行方不明事故や転倒事故などのリスクが格段に上がります。

雨天などで少しでも危険性が増すようなら、無理をして決行してはいけません。潔く中止にするか、「雨天の場合はいつものファミレス」など、あらかじめ予備の場所を決めておくといいでしょう。

事故防止のためには外出行事計画表で綿密に計画を立て、外出行事リスクチェック表で実施するかどうかを決定します。そうやって万全の態勢で臨んでも、事故が起こった場合はどうしたらいいのでしょうか。

外出先での行方不明事故は、いかに早く周囲に協力要請ができるかがカギを握ります。いざというときに協力をお願いする管理事務所などを出発前に確認しておき、協力を求めやすいように利用者には目印を付けておくといいでしょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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