行事で外出中に認知症の利用者がいなくなってしまった場合の対処方法です。その際は、周囲の協力を得ていち早く見つけなくてはいけません。また、どうすればこの事故を回避できるかについても解説します。
事故発生時の状況
デイサービスの外出行事で、近所の有名なお寺にお花見に行きました。職員3名で利用者5名(全員認知症で1名は車椅子)でしたが、あいにく小雨のうえ、混んでいました。
到着して1時間後、午後2時に利用者のTさんがいないことに気づき、職員2名で午後4時まで捜しましたが発見できず、施設と家族に連絡を入れました。
結局Tさんは翌日、隣の市で警察に保護されて無事でしたが、家族は市に苦情を申し立てました。
【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか
この事故では、過失の有無についてどのように判断されるでしょうか。
事故評価の基本的な考え方
デイサービスでの外出行事においても、行方不明事故の評価は入所施設と同様です(第31回参照)。
認知症の利用者が行方不明になり事故に遭遇すれば、ほぼ施設側の過失とみなされてしまいます。外出行事は、事前にきちんと対策を立てておくことが大切です。
この事故が過失とされる場合
次のような場合、事業者の過失と判断されることがあります。
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったのか
5名の認知症の利用者に対して3名の職員という職員配置が、ただちに危険とみなされ過失となるわけではありません。
むしろ、小雨のときに混んでいる場所に行ったことに無理があったかもしれません。雨が降った場合は外出を延期、もしくは外出先の変更を検討するべきでした。
天候などの外的な条件が良好でも、利用者を見失う可能性があります。そのとき、施設の応援を頼まずに2時間も外出に同行した職員だけで捜していたことは、きわめて不適切な対応とみなされるでしょう。
行方不明事故は完全に防ぐことが難しい事故ですから、発生することを前提に「発生時に迅速に保護するための対策」をあらかじめ決めておくことが大切です。
こんな原因分析はダメ!
外出先での行方不明事故への基本的な対処方法は?
この事故への対処方法としては以下の2つが考えられます。
管理事務所に協力を要請する
外出先で行方不明事故が発生した場合は、すぐに周囲の協力を求めなければなりません。
時間が経過すればするほど、捜索が困難になるからです。
公園ならば公園の管理事務所が、お寺や神社なら寺務所や社務所があります。管理事務所の場所をあらかじめ確認しておくと、何かトラブルが起こった際に迅速に対処できるので安心です。
捜しやすいように、利用者に目印を付けておく
利用者の胸元や腕などに、何かしらの目印を付けておくのも有効です。
たとえば、いざというときに公園内の放送設備を使って、「胸にオレンジのリボンを付けたおじいさんが行方不明です。お気づきのかたは、公園管理事務所までお願いします」というように、具体的に特徴を伝えることができます。
事前対策としてできることは?
外出行事を計画する際には、どんなことに気をつければいいのでしょうか。
次の2つを用意するといいでしょう。
- 外出行事計画表
- 外出行事リスクチェック表
それぞれ解説していきます。
対策1:外出行事計画表を活用する
外出行事では事前の計画が肝心です。外出行事計画表を活用することで、綿密に計画を立てることができます
対策2:外出行事リスクチェック表を作成する
下のチェック表を参考にしながら、各施設で独自の外出行事リスクチェック表を作成しましょう。対応が難しい項目があれば、計画の見直しや予定変更をする必要があります。
計画にこだわらず、天候や体調で臨機応変な対応をする
外出行事はよい気分転換になりますし、利用者の体力維持にも効果的です。しかし施設内で生活しているより、行方不明事故や転倒事故などのリスクが格段に上がります。
雨天などで少しでも危険性が増すようなら、無理をして決行してはいけません。潔く中止にするか、「雨天の場合はいつものファミレス」など、あらかじめ予備の場所を決めておくといいでしょう。
事故防止のためには外出行事計画表で綿密に計画を立て、外出行事リスクチェック表で実施するかどうかを決定します。そうやって万全の態勢で臨んでも、事故が起こった場合はどうしたらいいのでしょうか。
外出先での行方不明事故は、いかに早く周囲に協力要請ができるかがカギを握ります。いざというときに協力をお願いする管理事務所などを出発前に確認しておき、協力を求めやすいように利用者には目印を付けておくといいでしょう。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています