デイサービスのレクリエーション中に起きてしまった事故では、施設側の過失はどう判断されるでしょうか。その場合、事前にきちんと確認や準備をしていたかどうかが問題になります。
事故発生時の状況
Qさんは、脳梗塞による片マヒで車椅子使用の82歳男性です。週3回のペースでデイサービスを利用しています。レクリエーションが大好きなQさんは、比較的活発な利用者です。あるとき、いつものように風船バレーを楽しんでいました。
レクリエーションが終了した後、座面からずれて車椅子から前に落ちてしまいました。「お尻が痛い」と言うので受診した結果、仙骨の骨折でした。Qさんは少し古い型の車椅子を使用していました。
【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか
この事故で、過失の有無にはどう判断されるでしょうか。
事故評価の基本的な考え方
レクリエーション中や終了直後の事故が全て過失になるわけではありません。
デイサービスで提供するレクリエーションは、機能訓練(リハビリテーション)などと同様に法令で認められたサービスですから、安全に配慮していれば過失にはなりません。
しかし身体機能上、明らかに危険が認められる場合や、レクリエーション中に明らかな危険が見られた場合は、レクリエーションを取りやめ、安全を優先しなければなりません。
この事故が過失とされる場合
体を動かすレクリエーションについては、次のようなケースが過失と判断されやすいでしょう。
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったのか
Qさんが使用していた車椅子が少し古いタイプだったようです。この場合、座面がたるんでいたりすれば、上半身の活発な動きによって座位がずれることが予測されます。
レクリエーションの最中にも注意して見守り、座位が不安定になって転落する危険性がないかをチェックしなければなりません。終了後も同様のチェックが必要です。
そもそも車椅子は移動のための道具です。車椅子に座ったまま動きのあるレクリエーションを行うのは危険なので、可能な限り利用者の体格に適した椅子に移り、座って実施することが重要です。
施設側が、これらの「レクリエーションによって利用者に起こるさまざまな変化」をチェックせず、漫然とレクリエーションを行って事故に至れば、過失として責任を問われるでしょう。
レクリエーションの開始時にも車椅子のブレーキがしっかり利くかどうかなどをチェックする必要があります。レンタルであればケアマネジャーに連絡します。
こんな原因分析はダメ!
安全なレクリエーションのために気にかけるべきこと「4つ」
いつもは安全にレクリエーションができている人も、その日の体調によっては運動が適さないこともあります。その日のレクリエーションを安全に行うために、何に気をつけて確認を行えばいいのでしょうか。その視点を見直しましょう。
「いつもと違う様子」に敏感になる
お年寄りの体調やADLは毎日変化します。バイタルチェックの際は数値も大切ですが、「いつもとどこか違う」という直感も大切です。
本人の意思や、やる気を尊重する
お年寄りは日によって気分にムラがあるものです。乗り気でない人に無理強いすると、うまく動けずにケガをすることがあるので注意しましょう。
服装や用具に問題がないかを確認する
運動に適した服装であるかどうかはもちろんチェックしますが、福祉用具に問題があるかないかも必ず確認するようにしましょう。
開始から10分ほど経過したら様子を確認する
運動中に体調の変化が起こることもあるので、10分ほど経過したら一度チェックします。そのときに少しでも様子がおかしければ、運動を中止してバイタルチェックを行うことが必要です。
施設独自の「安全チェック表」をつくろう
デイサービスのレクリエーションは、娯楽とリハビリを兼ねています。なかには体を動かすレクリエーションもありますが、その際は事例のようにケガが心配です。体を動かすレクリエーションを行う場合は、身体チェックだけでなく、運動によって発生する危険も予測して確認をする必要があります。
安全なレクリエーションのためのおもな確認事項を、下に挙げます。事前のバイタルチェック以外に、ここまでは基本事項として確認しておきたいものです。
上のレクリエーション安全チェック表は、ある理学療法士がつくりました。チェック項目がかなり細かいので、全ての安全チェックを行うのは現実的に難しいかもしれません。
ですからこのチェック表の内容が最大と考えて、各施設で必要だと思うものをピックアップして、施設独自の安全チェック表をつくってみてはいかがでしょうか。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています