【通所施設での事故防止策⑤】レクリエーション中の事故|事故防止編(第38回)

【通所施設での事故防止策⑤】レクリエーション中の事故|事故防止編(第38回)

デイサービスのレクリエーション中に起きてしまった事故では、施設側の過失はどう判断されるでしょうか。その場合、事前にきちんと確認や準備をしていたかどうかが問題になります。

事故発生時の状況

Qさんは、脳梗塞による片マヒで車椅子使用の82歳男性です。週3回のペースでデイサービスを利用しています。レクリエーションが大好きなQさんは、比較的活発な利用者です。あるとき、いつものように風船バレーを楽しんでいました。

デイサービスのレクリエーションで風船バレーを楽しむ利用者のイラスト

レクリエーションが終了した後、座面からずれて車椅子から前に落ちてしまいました。「お尻が痛い」と言うので受診した結果、仙骨の骨折でした。Qさんは少し古い型の車椅子を使用していました。

デイサービスでのレクリエーションが終わった後、車椅子から落ちてしまう利用者のイラスト

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事故で、過失の有無にはどう判断されるでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

レクリエーション中や終了直後の事故が全て過失になるわけではありません。

デイサービスで提供するレクリエーションは、機能訓練(リハビリテーション)などと同様に法令で認められたサービスですから、安全に配慮していれば過失にはなりません。

しかし身体機能上、明らかに危険が認められる場合や、レクリエーション中に明らかな危険が見られた場合は、レクリエーションを取りやめ、安全を優先しなければなりません

この事故が過失とされる場合

施設の車椅子がたるんでいることに気づくが、買い替える予算がないことを理由にそのままにする介護職員のイラスト

体を動かすレクリエーションについては、次のようなケースが過失と判断されやすいでしょう。

  • 利用者の身体機能に対して、レクが明らかに危険であった り、レク中に何らかの変化で危険な状況なのに、中止しなかった場合

  • レク中の体の動きで福祉用具などにリスクが発生しているのに、放置した場合
  • レク終了後に何の点検もせず、レク中に発生したリスクに気づかなかったため、事故に至った場合

こんな事故評価はダメ!

  • Qさんは突然車椅子から落ちたので、支えきれなかった。防ぎようがない事故なので、施設に過失はない

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

Qさんが使用していた車椅子が少し古いタイプだったようです。この場合、座面がたるんでいたりすれば、上半身の活発な動きによって座位がずれることが予測されます。

レクリエーションの最中にも注意して見守り、座位が不安定になって転落する危険性がないかをチェックしなければなりません。終了後も同様のチェックが必要です。

そもそも車椅子は移動のための道具です。車椅子に座ったまま動きのあるレクリエーションを行うのは危険なので、可能な限り利用者の体格に適した椅子に移り、座って実施することが重要です。

施設側が、これらの「レクリエーションによって利用者に起こるさまざまな変化」をチェックせず、漫然とレクリエーションを行って事故に至れば、過失として責任を問われるでしょう。

レクリエーションの開始時にも車椅子のブレーキがしっかり利くかどうかなどをチェックする必要があります。レンタルであればケアマネジャーに連絡します。

こんな原因分析はダメ!

  • 車椅子が古かったから(在宅利用者の車椅子は施設所有ではない)

安全なレクリエーションのために気にかけるべきこと「4つ」

いつもは安全にレクリエーションができている人も、その日の体調によっては運動が適さないこともあります。その日のレクリエーションを安全に行うために、何に気をつけて確認を行えばいいのでしょうか。その視点を見直しましょう。

「いつもと違う様子」に敏感になる

介護職員が利用者のいつもと違う様子に気づくイラスト。利用者本人は大丈夫と言っている場合でも、いつもと違う様子があれば気にかけるようにしましょう。

お年寄りの体調やADLは毎日変化します。バイタルチェックの際は数値も大切ですが、「いつもとどこか違う」という直感も大切です。

本人の意思や、やる気を尊重する

レクリエーションに乗り気でない利用者と、その意向を尊重する介護職員のイラスト

お年寄りは日によって気分にムラがあるものです。乗り気でない人に無理強いすると、うまく動けずにケガをすることがあるので注意しましょう。

服装や用具に問題がないかを確認する

車椅子のチェックをする介護職員のイラスト。レクリエーションの前には空気圧・ブレーキの安全などを確認します。

運動に適した服装であるかどうかはもちろんチェックしますが、福祉用具に問題があるかないかも必ず確認するようにしましょう。

開始から10分ほど経過したら様子を確認する

レクリエーションが始まって10分ほど経過したタイミングで、利用者の様子を確認する介護職員のイラスト。

運動中に体調の変化が起こることもあるので、10分ほど経過したら一度チェックします。そのときに少しでも様子がおかしければ、運動を中止してバイタルチェックを行うことが必要です。

施設独自の「安全チェック表」をつくろう

デイサービスのレクリエーションは、娯楽とリハビリを兼ねています。なかには体を動かすレクリエーションもありますが、その際は事例のようにケガが心配です。体を動かすレクリエーションを行う場合は、身体チェックだけでなく、運動によって発生する危険も予測して確認をする必要があります

安全なレクリエーションのためのおもな確認事項を、下に挙げます。事前のバイタルチェック以外に、ここまでは基本事項として確認しておきたいものです。

レクリエーション安全チェック表(一例)以下チェック項目:チェック内容(確認の方法)。【実施前】その利用者の身体機能に対して安全か?:座る位置が定まらない利用者はずり落ちの危険がある。上半身が大きく傾く利用者は椅子からの転落やいすごと転倒の危険がある。介助者の人数に対して利用者の人数は適切か?:少なくとも利用者5名に対して職員が1名以上でなければならない。その日の体調は良好か?:バイタルチェックだけでなく、朝からの利用者の様子やそぶりを観察し、調子が悪そうであれば積極的に勧めない。本人が遠慮している場合も同様に無理に勧めない。トイレは済ませているか?:レクリエーションの前から意識的にトイレ誘導を行う。レクリエーション開始時に一声かける。椅子・車イスは安全か?:椅子・車イスが安全な状態か必ず確認する。特に車イスのブレーキを確認のうえ、少し動かしてみて安全性を確認する。フットサポートから足を下ろしているか?:車イスのフッとサポートから足を下ろした状態で、かかとが床にしっかりついているかを確認する。ついていない場合は、足台を利用する。隣の利用者との距離は適切に保たれているか?:隣の利用者と近すぎると衝突事故を起こす。【実施中】介助方法は適切か?:支えや介助が必要な利用者が一人になっていないか確認する。見守りは適切か?:座位の安定性や上半身のバランスが悪い利用者の見守りは適切か?危険度の高い利用者のそばに職員が付き添っているか。聴力・視力障害の利用者に対して:聴力・視力障害のある利用者の配置に配慮しているか。レクリエーションに集中できているか?:デイルームの人の出入りが多かったり、雑音や音楽で気が散るとケガのもと。隣の利用者との距離は適切に保たれているか:レクリエーションをやっているうちに、椅子や車イスの位置が動いていないか確認する。水分補給・休憩は適切か? 動きの激しい人には水分補給や休憩をすすめる。急に動きの変化した利用者はいないか?:隊長の変化で急に動きが止まったりお、具合が悪くなる人がいたら素早く対処する。【実施後】座位の安定・姿勢に変化はないか?:上半身を動かした後は、座位に変化がないか確認する。体調に変化がないか?:バイタルチェックよりも表情や動きの様子を重視してよく観察する。

上のレクリエーション安全チェック表は、ある理学療法士がつくりました。チェック項目がかなり細かいので、全ての安全チェックを行うのは現実的に難しいかもしれません。

ですからこのチェック表の内容が最大と考えて、各施設で必要だと思うものをピックアップして、施設独自の安全チェック表をつくってみてはいかがでしょうか。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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