送迎車の運転手を採用する際に、ドライバーとしての適性を厳密に確認していますか? 「ゴールド免許だから」と採用したり、安全運転教育を疎かにすると事故が起きる確率は上がります。
事故発生時の状況
Pさんは大手企業を定年退職して、デイサービスの運転手として再就職しました。大手企業で定年まで勤めあげたのは協調性があると考えられたことと、ゴールド免許であったことが採用の決め手でした。
ある日、送迎のために保育園の裏口付近の道路を運行していたときのことです。お迎えの保護者の陰から子どもが飛び出してきて接触し、子どもがケガをしてしまいました。また、急ブレーキをかけたために乗っていた利用者3人も軽傷をおいました。
【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか
事故の背景を、詳細に見ていきましょう。
事故評価の基本的な考え方
デイサービスの送迎車は、認知症や障害のある利用者を乗せているため、運転だけでなく車内の利用者にも気を配らなければなりません。
また、送迎の経路が狭い生活道路である場合は、多くの危険が伴います。一方、運転手の多くが嘱託採用の高齢人材であり、その安全運転能力の欠如が大きな問題です。
この事故が過失とされる場合
運行中の送迎車が人身事故や物損事故を起こした場合は、自動車事故判例によって決められた過失割合などで、その責任の割合が評価されます。
ただし、送迎車の事故はそのほとんどが、住宅地の幅の狭い生活道路で起こることから、一般国道などと異なり歩行者や自転車などに対する格段の注意が必要です。
程度の差はあっても基本的には運転手の過失になり、同時に事業者も運行供用者責任に基づき賠償責任を負うことがあります。
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったのか
デイサービスの送迎中の事故が年々増えています。デイサービスの数が増えていることに加えて、運転手の質が低下していることが原因です。
また、デイサービスの運転手はシルバー人材センターなどを通じて採用される嘱託社員が多く、採用時の運転適性の評価や採用後の安全運転教育などが不十分であることも大きな要因です。
定年退職者を採用してみたら、その職歴が社用車を運転しない部門ばかりで運転経験が未熟だったということが少なくありません。シルバー人材を運転手として採用するには、職歴における運転業務の頻度が安全運転能力の評価につながります。
生活道路での運転では、道路状況を予測した運転が必要になりますから、送迎コース上の危険箇所マップの作成が必要です。
こんな原因分析はダメ!
施設側も運転手も安全運転への高いモラルが必要
通所施設の送迎車は、狭い生活道路を運行することが多くなります。道路上に子どもが飛び出してくる可能性がある場所ではいったん停車するなど、歩行者の安全確保を最優先に走行することが大切です。
そうした運行の安全性を高めるためにも、「危険箇所マップ」をつくるなどの工夫をしましょう。
【対策1】危険箇所マップを作成する
通所施設の送迎を担当する運転手には、定期的に安全運転講習を受けてもらうなどの教育を行いましょう。また、日頃通る道路に関しては上のような「危険箇所マップ」を作成し、事故を防ぐための意識を高めることが大切です。
【対策2】運転手の採用方法を見直す
また、施設で運転手を雇う際に、明確な採用基準は設けられているでしょうか。下に、通所施設の運転手採用試験の例を挙げました。
運転手は運転経験の豊富さや、安全運転に対する意識の高さを重視して採用を行うことが大切です。
送迎時の事故を防ぐためには、運転手を採用する際の採用基準を見直すことも大切です。この事例では「大手企業を定年退職した人で、協調性があり、ゴールド免許だったので採用した」とあります。
しかし運転手として大切なのは、大手企業であることよりも在籍していた会社での社用車の運転経験です。10人乗りのワゴン車など大型車の運転経験があるかなど、運転手としての適性を重視した採用基準を設けましょう。
送迎車の運転を外部業者に委託している場合、施設側はその運行業務を管理しており、かつ運行業務によって利益を得ています。これにより「運行供用者責任」が発生し、賠償責任をおう可能性があります。介護施設事業者は、常に高いモラルを求められているのです。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています