【通所施設での事故防止策④】送迎中の自動車事故|事故防止編(第37回)

【通所施設での事故防止策④】送迎中の自動車事故|事故防止編(第37回)

送迎車の運転手を採用する際に、ドライバーとしての適性を厳密に確認していますか? 「ゴールド免許だから」と採用したり、安全運転教育を疎かにすると事故が起きる確率は上がります。

事故発生時の状況

Pさんは大手企業を定年退職して、デイサービスの運転手として再就職しました。大手企業で定年まで勤めあげたのは協調性があると考えられたことと、ゴールド免許であったことが採用の決め手でした。

デイサービスの送迎車が保育園の裏口近くを運行しているイラスト

ある日、送迎のために保育園の裏口付近の道路を運行していたときのことです。お迎えの保護者の陰から子どもが飛び出してきて接触し、子どもがケガをしてしまいました。また、急ブレーキをかけたために乗っていた利用者3人も軽傷をおいました。

デイサービスの送迎車が子供と接触してしまうイラスト。乗っていた利用者も軽傷を負いました。

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

事故の背景を、詳細に見ていきましょう。

事故評価の基本的な考え方

デイサービスの送迎車は、認知症や障害のある利用者を乗せているため、運転だけでなく車内の利用者にも気を配らなければなりません

また、送迎の経路が狭い生活道路である場合は、多くの危険が伴います。一方、運転手の多くが嘱託採用の高齢人材であり、その安全運転能力の欠如が大きな問題です。

この事故が過失とされる場合

デイサービスの送迎車の運転手の面接の悪い例。ゴールド免許=安心として採用。本当はあまり運転していないこともあるので注意。

運行中の送迎車が人身事故や物損事故を起こした場合は、自動車事故判例によって決められた過失割合などで、その責任の割合が評価されます。

ただし、送迎車の事故はそのほとんどが、住宅地の幅の狭い生活道路で起こることから、一般国道などと異なり歩行者や自転車などに対する格段の注意が必要です。

程度の差はあっても基本的には運転手の過失になり、同時に事業者も運行供用者責任に基づき賠償責任を負うことがあります。

こんな事故評価はダメ!

  • 運転手がもっと気をつけるべき

  • しっかりした人を雇っていたのになぜだろう?

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

デイサービスの送迎中の事故が年々増えています。デイサービスの数が増えていることに加えて、運転手の質が低下していることが原因です。

また、デイサービスの運転手はシルバー人材センターなどを通じて採用される嘱託社員が多く、採用時の運転適性の評価や採用後の安全運転教育などが不十分であることも大きな要因です。

定年退職者を採用してみたら、その職歴が社用車を運転しない部門ばかりで運転経験が未熟だったということが少なくありません。シルバー人材を運転手として採用するには、職歴における運転業務の頻度が安全運転能力の評価につながります。

生活道路での運転では、道路状況を予測した運転が必要になりますから、送迎コース上の危険箇所マップの作成が必要です。

こんな原因分析はダメ!

  • 送迎担当の職員が、きちんと確認をしなかったから

施設側も運転手も安全運転への高いモラルが必要

通所施設の送迎車は、狭い生活道路を運行することが多くなります。道路上に子どもが飛び出してくる可能性がある場所ではいったん停車するなど、歩行者の安全確保を最優先に走行することが大切です。

そうした運行の安全性を高めるためにも、「危険箇所マップ」をつくるなどの工夫をしましょう。

【対策1】危険箇所マップを作成する

危険箇所マップのイラスト。以下内容例。この商店のとおりはガードレールがない上、自転車などが停めてあります。これを避けて車道にはみ出してくる歩行者や自転車がいるので、最徐行箇所です。この保育園の裏口付近は、4時すぎには必ずお迎えの保護者が立ち話をしています。数人の保護者が立っている陰から子供が急に出てくるので、少し離れて走行しましょう。この細い路地はブロック塀が角切りされていないので、自転車で出てくる人が見えません。少し道路中央によって走行すると、路地が少し見通せるようになります。この整形外科の前は、車を路上に停めてお年寄りをおろしている光景をよく見かけます。一度車から降りたお年寄りがよろけて車道に出てきたことがあるので、車がとまっているときは注意が必要です。この角の左の側溝に近い部分がくぼんでいて、左折するときは左の車輪が落ち込んで車両が左に傾いてしまします。ちょっと大回りにゆっくり曲がると車両が揺れません。

通所施設の送迎を担当する運転手には、定期的に安全運転講習を受けてもらうなどの教育を行いましょう。また、日頃通る道路に関しては上のような「危険箇所マップ」を作成し、事故を防ぐための意識を高めることが大切です。

【対策2】運転手の採用方法を見直す

また、施設で運転手を雇う際に、明確な採用基準は設けられているでしょうか。下に、通所施設の運転手採用試験の例を挙げました。

運転手は運転経験の豊富さや、安全運転に対する意識の高さを重視して採用を行うことが大切です。

デイサービス送迎車運転手採用選考試験問題の例。1)あなたの運転業職歴について。2)安全運転について。3)自動車事故について。4)送迎業務における安全点以外の注意。の4つの設問

送迎時の事故を防ぐためには、運転手を採用する際の採用基準を見直すことも大切です。この事例では「大手企業を定年退職した人で、協調性があり、ゴールド免許だったので採用した」とあります。

しかし運転手として大切なのは、大手企業であることよりも在籍していた会社での社用車の運転経験です。10人乗りのワゴン車など大型車の運転経験があるかなど、運転手としての適性を重視した採用基準を設けましょう

送迎車の運転を外部業者に委託している場合、施設側はその運行業務を管理しており、かつ運行業務によって利益を得ています。これにより「運行供用者責任」が発生し、賠償責任をおう可能性があります。介護施設事業者は、常に高いモラルを求められているのです。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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