【通所施設での事故防止策③】送迎車両内の置き去り事故|事故防止編(第36回)

【通所施設での事故防止策③】送迎車両内の置き去り事故|事故防止編(第36回)

送迎車に利用者さんを置き去りにしてしまう事故について、「うちの施設では、こんなことはありえないだろう」という思い込みを持ってしまう職員がいます。その「思い込み」こそが危険なのです!

事故発生時の状況

Oさん(82歳女性)は、心疾患による持病があり、ときどき頭がボーッとしてしまうことがあります。

ある土曜日、デイサービスの送迎車の3列シートの最後列に1人で座っていたときのことです。突然、Oさんは意識混濁を起こし、シートに横たわってしまいました。

デイサービスの送迎車の社内のイラスト。3列目に座っている利用者が体調を悪くしてしまっています。

運転手は、ほかの利用者を送迎車から降ろして車内を見渡しましたが、3列目のシートに横たわっているOさんの姿が見えませんでした。そのままOさんを降ろし忘れてしまい、駐車場に駐車して車内に置き去りにしてしまったのです。

デイサービスの送迎車のイラスト。3列目のシートに横たわっている利用者に介護職員が気が付いていない。

その日の夕方、Oさんは亡くなった状態で発見されました。運転手は「Oさんは土曜日の利用が少ないため、確認がおろそかになっていた」と述べました。

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事故の場合、過失の有無についてはどう判断されるでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

デイサービスの利用者は、要介護の高齢者で多発性脳梗塞などの持病がある人が少なくありません。当然デイサービスの送迎車両内で、体調急変や持病の増悪(ぞうあく)などが起きない保証はありませんから、絶えず安全確認が必要になります。

車両走行中の確認は難しくても、利用者の乗降のために停車したときや発車するとき、施設に到着したとき、送迎を終了するときの車内の点検は欠かせません。

この事故が過失とされる場合

運転手が送迎車内を確認しているイラスト。車外からのみ確認している悪い例。

送迎車両内で起こるリスクは多様です。車両の運行による揺れや、急ブレーキなどによるシートからの転落、車内での体調不良によるシートからの転落など、さまざまなリスクがあります。

交通事故を回避するための急ブレーキなど不可抗力による事故も発生しますが、この場合は過失とは認定されないことが多いでしょう。

事例のように車内で発生したリスクに迅速に対処するための安全確認を怠っていると、過失とみなされるケースがあります。

利用者の車内での様子確認のために、添乗の介護職が利用者と世間話をするデイサービスもあります。

こんな事故評価はダメ!

  • 送迎担当職員のミス
  • もっとしっかり確認しよう

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

デイサービスの送迎車は要介護の高齢者を搬送しているので、路線バスの乗客よりも搭乗中にケガや予測できないリスクが起こる可能性が高いものです。運転手は、急発進、急ブレーキ、急ハンドルを極力避ける運転をしなければなりません。

過失はなくても、車内で事故が起こることはあります。そこで、車内で発生したリスクに素早く対処し、重大な事故にならないように絶えず搭乗者に対して気を配ることが大切です。

2007年に千葉県で、送迎車に搭乗していた利用者を降ろし忘れた事故がありました。この事故は、車内の様子をチェックするしくみがまったくなかったことが最大の原因でした。

3列シートの最後列のシートに横たわってしまった利用者はどこからも見えない死角に入ってしまうので、車内を点検しない限り見すごされてしまいます!

こんな原因分析はダメ!

  • 送迎担当の職員が、きちんと確認をしなかったから

この事故の原因と再発防止策

再発防止策には、以下の3つがあります。

  1. 利用者確認の業務手順を徹底する
  2. 最終降車者のチェックを徹底する
  3. 最後列シートの死角をなくす

1.利用者確認の業務手順を徹底する

送迎車が迎えに行ったということは、運転手はOさんの臨時利用を知っていました。

しかし、デイサービスの職員はいるはずのOさんがいないことから、なぜOさんが車から降りていない可能性に気づかなかったのでしょうか。

デイサービスの職員は、Oさんの臨時利用をきちんと把握していなかった可能性が考えられます。これは単なる連絡ミスではすまされません。その日にサービス提供する利用者を把握するという、基本中の基本ができていなかったのです。

【利用者確認の業務手順】利用確定者リストを前日に確認し、送迎車の手配・朝の利用者確認、バイタルチェック、薬・連絡帳預かり・入浴手順の確認・食事・おやつの手配を行う。利用確定者リストは、利用予定者リストに利用中止・臨時利用・新規利用の変更連絡を反映させたもののこと。

上のチャートにある利用者確認業務の中でもっとも重要なことは、変更連絡の徹底です。利用変更の連絡ミスが起こらないよう、万全の対策を考えましょう。

たとえばあるデイサービスでは送迎車に「利用者連絡ノート」が吊るされており、家族から得た情報はすぐに書き留めるルールです。ほかのデイサービスでは運転手が送迎の際に情報を得た場合は、そのまま家族の目の前で事業所に連絡することになっています。

2.最終降車者のチェックを徹底する

多くの通所介護事業者は、「最後の利用者を誘導したあとは、車内に忘れ物などがないか確認する」という決まりを設けています。

当たり前のように感じますが、これを徹底するのは大変なことです。

朝、一斉に到着した利用者を、職員が施設内に誘導します。ようやく最後の利用者を誘導し終わったあとで、ほかに用事もないのに点検だけのために送迎車に戻るというのは非効率的だからです。

送迎車降車確認表の例。確認表の記入方法:お迎え時の確認→お迎えの送迎車が施設に到着し、最後の利用者が降車した後、添乗の介護職と運転手で車内を確認し、確認表に名前を記載。お送り時の確認:お送りが終了し、送迎車が施設に戻ったとき、添乗の介護職と運転手で車内を確認し、確認表に名前を記載。

上記の表を使って、降車確認のチェックを実際にやってみました。すると、利用者が到着して業務が煩雑になる時間帯に、たった5分間でも駐車場に戻ってチェックするのは難しいことがわかりました。

この時間帯に比較的動きやすい管理者や事務職に協力してもらうなど、施設全体の問題として方法を模索する必要があります。

3.最後列シートの死角をなくす

3つ目の原因に、「最後列には死角が多く、運転手やスタッフから見えなかった」という点が挙げられます。車内を見まわしたときに利用者の姿が見えなければ、「もういない」と誤認することもあるでしょう。

では、最後列の死角をなくすにはどうしたらいいのでしょうか。

【送迎車の最後列の死角をなくすには】車内で死角をなくすには鏡の設置が有効。3列目のシートにぬいぐるみを置く→天井に設置したミラーでシート上が見える。4列目のシートにぬいぐるみが置いてある→左後方に設置したミラーでシート状が見える

上のイラストでわかるように、車内で死角をなくすには鏡の設置が有効です。

鏡では細かいところまでは把握できませんが、何か異変を察知することは十分できます。スタッフの注意力だけに頼るのではなく、気づきやすい環境をつくることが大切です。

置き去り事故を防止するルールづくりをしよう

実際に送迎車両内の置き去り死亡事故が発生した際、多くの介護施設の管理者が「こんな事故が起こるなどありえない」と言って驚いたものです。

そこで、そんな管理者に「では、あなたの施設ではいつ、誰が、どうやって確認していますか? 確認方法は? 確認手順は? マニュアルはありますか?」と詳しく質問しました。

すると、ほとんどの施設が、置き去り事故を防止するための明確なルールを設けていなかったのです。

大きな事故を起こした施設を見て、「うちの施設ではこんな事故が起こるはずがない」と考えてはいけません。不運が重なれば明日は我が身だと思って、自らの施設の現状を見直す視点を持つことが大切です。

もし、まだ明確なルールやチェック体制ができていない施設があったら、このページの例を参考にして、早急に置き去り事故を防止するためのルールをつくりましょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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