【通所施設での事故防止策②】送迎車両乗降時の介助|事故防止編(第35回)

【通所施設での事故防止策②】送迎車両乗降時の介助|事故防止編(第35回)

送迎時に必ず行われる乗降介助ですが、一般的にマニュアル化されていません。「注意する」という曖昧なものではなく、声かけなどの具体策をマニュアル化して持っておくことが大切です。

事故発生時の状況

Nさんは、軽度の片マヒがある杖歩行の利用者です。週に2回ほど、デイサービスを利用しています。ある日、いつものようにデイサービスの送迎担当の職員がしゃがんで足台を用意し、「では乗ってください」と言いました。

軽度の片マヒのある杖歩行の利用者が送迎車に乗ろうとしているイラスト

Nさんは、いつもと同じように右手に杖を持ったまま送迎車に乗り込もうとしました。しかしその日はなぜか、ふらついてしまったのです。

Nさんはそのまま転倒し、骨折してしまいました。送迎担当の職員は「いつもと違うところはなかった」として、事故原因はよくわからないままでした。

軽度の片マヒのある杖歩行の利用者が送迎車に乗ろうとして、ふらつき転倒してしまうイラスト

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事例の場合、過失の有無についてはどう判断されるでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

送迎車両の乗車時の事故には2つのケースがあります。

歩行が自立している利用者が足台やステップに乗って車両に乗り込むときの事故と、車椅子の利用者がリフトを使って乗車するときの事故です。

これらの2つの場面では、介助の手順に隙があればすぐに転倒事故に直結しますから、送迎車両乗降時のマニュアルがなければ安全に行うことはできません。ほとんどの通所介護事業者に送迎時の車両乗降介助マニュアルがないことが問題です。

この事故が過失とされる場合

送迎車の踏み台の安定が悪いままで利用者を乗せようとするイラスト

職員の安全確認不足で起こる次のような事故は、全て事業者の過失と考えられます。

ステップから乗車するときの事故

  • 杖を預からずにステップから乗車しようとして転倒した
  • 安定の悪い踏み台がぐらついて転倒した
  • スライドドアを全開までスライドさせて固定しなかったため、ドアが戻ってきて利用者に当たった

車椅子でリフトを使って乗車するときの事故

  • いつもはこの介助方法で問題なかったので、事業者に過失はない
  • 職員の不注意なので、過失となる

こんな事故評価はダメ!

  • いつもはこの介助方法で問題なかったので、事業者に過失はない
  • 職員の不注意なので、過失となる

【原因分析】なぜこの事故が起こったか

事故原因や過失判断が「職員の不注意」だけで終わってはいけません

車両乗降時の介助は転倒リスクの高い場面が驚くほど多いのですから、隙のない安全な介助手順が必要です。

それぞれの場面での「安全確認手順」をマニュアル化して徹底しなかったことが事故原因と言えます。

他の事業所で以前、安全確認を怠っていきなりドアを閉めて、利用者の手指を4本挟んで骨折させる事故が起きました。介護職は「今後はドアを閉めるときには安全を確認する」と再発防止策を挙げましたが、これではおそらく再発してしまうでしょう。

「ドアを閉めるときには『ドアを閉めます!』と大きな声で声かけをして、ゆっくり閉める」というマニュアルをつくることで初めて再発防止策になるのです。

こんな事故評価はダメ!

  • 送迎担当職員の不注意によって起こった
  • もっとしっかり確認するべきだった

具体的な確認動作や声かけを決めることが大切

この事例のように、送迎車両乗降時の転倒事故は基本的に事業者側の過失を問われます。

この場合は杖を事前に預かり、安全に介助をしながら乗車すれば防げた事故だからです。送迎車両乗降中の利用者は、職員の保護下とみなされるので、事業者側が不可抗力を主張することは難しいと言えます。

送迎車両乗降時の事故を防止するためには、「送迎車両乗降マニュアル」などの具体的な決まりをつくることが大切です。「マニュアルのつくり方は、まず、現在職員が各自で実施している「乗降時の安全への工夫」 を持ち寄って、書き出します。 次に、過去のヒヤリハットから 危険な場面を発見し、その対策を取り込んだら完成です。

このとき、「注意してドアを閉める」などの抽象的な記述ではいけません。「『ドアが閉まります。ご注意ください』と声をかけて閉める」など、具体的な声かけ内容まで決めましょう

送迎車両乗降マニュアルの一例

お迎え時、お送り時の送迎車両乗降マニュアルの一例を用意しました。ぜひ、参考にしてみてください。

【お迎え時の送迎車両乗車マニュアル(一例)2続き】5)運転手:安全な場所であることを確認し、声掛けをしてから停車する。添乗員:必要に応じて荷物は先にご自宅に運んで家族に渡す。利用者の座位、様子、足元の確認。6)運転手:周囲の安全を確認して、声掛けをしてからドアを開ける。スライドドアはストッパーで固定されたことを確認する。添乗員:利用者が手すりにつかまったことを確認し、腰を上げる際に勢いがつかないように介助する。運転手に荷物や杖の準備を頼み、よいタイミングで受け取る。7)利用者に危険がないことを確認し、声掛けをしてからドアを閉める。周囲の安全を確認して運転席に戻る。発車するまで他の利用者と会話しながら全体を見守る。添乗員:◯段降ります・頭をぶつけないようお気をつけください・ほかの皆さんは少々お待ち下さいなどと声掛けをする。8)運転手:発車しますと声掛けをする。添乗員:ドアが開きます・閉まります。ご注意ください、皆さん大丈夫ですか?、発車OKです、と声掛けをする。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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