送迎時に必ず行われる乗降介助ですが、一般的にマニュアル化されていません。「注意する」という曖昧なものではなく、声かけなどの具体策をマニュアル化して持っておくことが大切です。
事故発生時の状況
Nさんは、軽度の片マヒがある杖歩行の利用者です。週に2回ほど、デイサービスを利用しています。ある日、いつものようにデイサービスの送迎担当の職員がしゃがんで足台を用意し、「では乗ってください」と言いました。
Nさんは、いつもと同じように右手に杖を持ったまま送迎車に乗り込もうとしました。しかしその日はなぜか、ふらついてしまったのです。
Nさんはそのまま転倒し、骨折してしまいました。送迎担当の職員は「いつもと違うところはなかった」として、事故原因はよくわからないままでした。
【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか
この事例の場合、過失の有無についてはどう判断されるでしょうか。
事故評価の基本的な考え方
送迎車両の乗車時の事故には2つのケースがあります。
歩行が自立している利用者が足台やステップに乗って車両に乗り込むときの事故と、車椅子の利用者がリフトを使って乗車するときの事故です。
これらの2つの場面では、介助の手順に隙があればすぐに転倒事故に直結しますから、送迎車両乗降時のマニュアルがなければ安全に行うことはできません。ほとんどの通所介護事業者に送迎時の車両乗降介助マニュアルがないことが問題です。
この事故が過失とされる場合
職員の安全確認不足で起こる次のような事故は、全て事業者の過失と考えられます。
ステップから乗車するときの事故
車椅子でリフトを使って乗車するときの事故
こんな事故評価はダメ!
【原因分析】なぜこの事故が起こったか
事故原因や過失判断が「職員の不注意」だけで終わってはいけません。
車両乗降時の介助は転倒リスクの高い場面が驚くほど多いのですから、隙のない安全な介助手順が必要です。
それぞれの場面での「安全確認手順」をマニュアル化して徹底しなかったことが事故原因と言えます。
他の事業所で以前、安全確認を怠っていきなりドアを閉めて、利用者の手指を4本挟んで骨折させる事故が起きました。介護職は「今後はドアを閉めるときには安全を確認する」と再発防止策を挙げましたが、これではおそらく再発してしまうでしょう。
「ドアを閉めるときには『ドアを閉めます!』と大きな声で声かけをして、ゆっくり閉める」というマニュアルをつくることで初めて再発防止策になるのです。
こんな事故評価はダメ!
具体的な確認動作や声かけを決めることが大切
この事例のように、送迎車両乗降時の転倒事故は基本的に事業者側の過失を問われます。
この場合は杖を事前に預かり、安全に介助をしながら乗車すれば防げた事故だからです。送迎車両乗降中の利用者は、職員の保護下とみなされるので、事業者側が不可抗力を主張することは難しいと言えます。
送迎車両乗降時の事故を防止するためには、「送迎車両乗降マニュアル」などの具体的な決まりをつくることが大切です。「マニュアルのつくり方は、まず、現在職員が各自で実施している「乗降時の安全への工夫」 を持ち寄って、書き出します。 次に、過去のヒヤリハットから 危険な場面を発見し、その対策を取り込んだら完成です。
このとき、「注意してドアを閉める」などの抽象的な記述ではいけません。「『ドアが閉まります。ご注意ください』と声をかけて閉める」など、具体的な声かけ内容まで決めましょう。
送迎車両乗降マニュアルの一例
お迎え時、お送り時の送迎車両乗降マニュアルの一例を用意しました。ぜひ、参考にしてみてください。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています