【通所施設での事故防止策①】利用者の自宅周辺での移動介助中の事故|事故防止編(第34回)

【通所施設での事故防止策①】利用者の自宅周辺での移動介助中の事故|事故防止編(第34回)

送迎時、施設側はどこまで責任を持たなければならないのでしょうか。送迎車から自宅間の移動介助中に起きた事故で、介護職が果たすべき責任、義務とは何かを考えてみましょう。

事故発生時の状況

Mさん(88歳・男性)は、車椅子を使用しているデイサービス利用者です。通常、移動は車椅子で介助します。しかし自宅の門から玄関までは砂利道なので、車椅子が使えません。そこで職員が2人がかりで歩行介助し、送迎している状況です。

デイサービス利用者を介護職員二人がかりで歩行介助しているイラスト

ある日、砂利道で歩行介助をしていて、もうすぐで玄関というときのことです。利用者の奥様が出てきて、「ありがとうございます。もうここで大丈夫です」と言われました。そこで奥様に引き渡したとたん、Mさんがふらついて転倒してしまったのです。

玄関前の砂利道で歩行介助をしていたが、利用者家族の申し出によって家族に引き渡した後、利用者がふらついて転倒してしまったイラスト。

受診の結果、大腿骨頸部骨折と診断されました。
施設管理者の見解は、「奥様がここでいいとおっしゃったので、お引き渡ししたまでです。奥様に引き渡した時点で送迎は完了しているので、事業者に過失はありません」というものです。

しかし近所に住む利用者の息子は「88歳の母に父の介助を任せるのはおかしい」と言って、意見は対立しています。

【事故評価】事故は未然に防ぐことができたか

この事故の場合、過失の有無はどのように判断されるでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

送迎時の自宅と送迎車の間の移動介助中の事故は、たとえ不可抗力的な要因が多い場合でも、過失とみなされる可能性が高いと考えられます。

見守りなどの間接的な介助と異なり、直接利用者の体を支えているような場面での事故は、介護職は介護のプロとしてもっとも高い注意義務が課されていると考えられるからです。

この事故が過失とされる場合

送迎時に移動介助をしながらおきた転倒は、砂利道という悪条件であっても基本的に過失とみなされる。

送迎時に移動介助をしながらの歩行中に起きた転倒は、ほとんどのケースで過失とみなされます。
しかし、車椅子移動中の事故であれば、車椅子や移動環境に予測できない危険があった場合は過失を否定できるかもしれません。

また、車両乗降中や車両乗降待ちの立位の状態で発生した転倒についても、過失とされるケースが多いと考えられます。それが砂利道という悪条件であっても、基本的には過失とみなされます。

こんな事故評価はダメ!

  • ご家族に利用者を引き渡したあとは事業者側に責任はないので、そもそも事業者の過失に数えられない

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

事故原因の考え方は次の通りです。

  • デイサービスの送迎時に発生する利用者のふらつきや転倒の原因は、無理な歩行環境であるケースが多いのです。今回の事故も、玄関まで車椅子で行けない環境が最大の事故原因と言えます

  • 直接原因は、車椅子介助の利用者を砂利道で歩行させていることにあります

  • 利用者が安全な介護保険サービスを受けるのに必要な環境を用意する責任は、ケアマネジャーと家族にあります。事業者側は安全なサービスが提供できない環境だと思ったら、ケアマネジャーに対して改善要求を行うことが必要です

こんな事故評価はダメ!

  • 利用者のご家族が、できないのに「ここで大丈夫」と言ったから

この事故の正しい対応と再発防止策は?

送迎車から自宅までの移動介助中の事故を防止するための、大切なポイントを3つご紹介しましょう。

利用者が自宅に帰着し、安全な状態と認められるまでが事業者側の送迎責任

【通所介護の送迎時】×:玄関で介助を終え、家族にお願いする。◯:利用者が家の中で座位の状態になるまで介助する。介護家族が高齢の場合は家族任せにせず、利用者が座位の状態になるまで責任を持ちましょう。

通所介護の送迎時、どの時点で利用者が家族の保護下を離れて事業者側の保護下に移行するかは、もともと明確ではありません。

しかしその境界線で事故が起こった場合、介護の専門職である事業者側が重い責任を問われることは、過去の判例から明白です。

介護家族が高齢の場合は家族任せにせず、利用者が自宅で座位の状態になるまで責任を持ちましょう。

家族が介助を引き受けても、その申し出を断り、職員が最後まで送り届ける

【通所介護の送迎時】老老介護の場合は、家族が自ら介助をすると申し出た場合でも、その申し出を断ってでも自宅内の安全な場所まで送り届けるようにしましょう。

通常、家族が自ら介助すると申し出れば、任せても問題はありません。

しかし、家族に任せたら危険を伴うような場合は別です。老老介護の家庭の場合は、そのまま任せることが安全とは到底言えません。

このような場合、事業者側は家族の申し出を断ってでも自宅内の安全な場所まで送り届ける義務があります。

サービスを開始する前に自宅の環境リスクを調査し、改善を求める

【通所介護サービス開始にあたって】サービスを開始する前に自宅の環境を改善しましょう。例)玄関前が砂利道で車椅子が使えない。✕:仕方がないので歩行介助で対応するよう介護職に指示。◯:砂利道の改修が可能か調べる。その結果、市の補助金で塗装工事ができそうなことがわかり、危険因子を減らすことにつながる

介護サービスが安全に提供できるよう、自宅の環境を整える役割を担っているのはケアマネジャーと家族です。

住宅改修や福祉用具のレンタルによって、環境によるリスクの多くは改善することができます。ところが、ひとたびサービス提供中に事故が起これば、その責任は環境を整えなかったケアマネジャーではなく、通所介護事業者が問われてしまうのです。

ですからサービス提供開始前に危ない部分を全てチェックし、必要に応じてケアマネジャーや家族に改善を求めなければなりません

利用者が安全に在宅生活に戻るところまでが責任

通所介護事業所では、送迎車と自宅との間の移動介助中の事故が相変わらず多いのが現状です。この事例でも、本来は車椅子で移動したいところを無理に歩行させているのは、玄関前まで続く砂利道が原因です。

通所介護事業者はサービスの提供を開始する前に、著しく送迎に不向きな環境があればケアマネジャーに改善を要求しましょう。改善されない場合は、サービス提供を断ることも必要です。

ある程度安全な環境が確保できたら、今度は安全に配慮した送迎を行います。事業者側は介護のプロですから、利用者が安全に在宅生活に戻るところまでが責任の範囲です。

お年寄りは他人に迷惑をかけたくないという気持ちが強いため、介助を遠慮する傾向があります。介護職は、家族が「ここで大丈夫」と言っても、気は抜けません。利用者の安全が確保されるところまで、送り届ける義務があるのです。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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