通所施設での事故防止活動は「家族との情報共有」が大切です|事故防止編(第33回)

通所施設での事故防止活動は「家族との情報共有」が大切です | 事故防止編(第33回)

今回からは通所施設での事故防止活動をご紹介していきます。通所施設は、自宅と施設を行き来しますから、利用者を守るためには家族との連携、情報共有が大切になります。

自宅と施設を行き来する通所介護の事故防止対策は「特殊」

通所施設は、「週○回」といった形で、自宅から通ってくる利用者に対して介護保険サービスを提供する施設です。そのため、通所施設の利用者は、基本的に在宅で生活しています。

そんな通所施設の大きな役割の一つが、在宅の要介護者と社会をつなぐことです。

たとえば引きこもりがちな要介護者がデイサービスの利用を始めると体力維持につながり、外に出て人と触れ合うことで精神面にもよい影響が期待できます。

【通所施設の特殊性】通所施設は、施設で過ごす時間と自宅での生活が互いに影響しあっています。在宅の要介護者と社会をつなぐことが、通所施設の大きな役割の1つと言えます。

一方、事故防止の側面から見ると、自宅と施設を行き来する通所施設には、独特の難しさがあるのも事実です。そこで、今回は通所施設で事故を防ぐために注意すべきポイントについて、整理しておきましょう。

利用者を守るために「施設と家族の連携」が必要

私は、かつてあるデイサービスと連携しながら、事故防止の勉強会を行ったことがあります。そこで、自宅と施設を行き来する利用者を考えていくと、「利用者の生活をとるか、安全をとるか」という問題にしばしば突き当たったものです。

そこには、日中独居になる利用者も、徘徊がひどい利用者もいました。そうしたいろいろな状況に置かれている利用者の生活を考えると、行き着く答えは「通所施設における事故防止には、家族の理解と協力が不可欠」ということでした。通所施設にとって利用者の家族は、ともに利用者の在宅生活を支える「同志」なのだと思います。

通所施設が事故防止のために家族としっかり連携をとりたい内容の1つ目は、「緊急事態に直面したときにどう動くか」です。

【緊急対応についての取り決め(一例)】朝の送迎時、自宅にて体調が急変していたのを職員が発見した場合:意識がない場合→救急車を呼ぶ。意識がある場合:デイサービスにほかの職員の応援を要請。〇〇医院(当デイサービス連携医療機関)に連絡後、指示をあおぐ。送迎中における体調の急変時:〇〇医院へ直行する。病院到着後、デイサービスへ連絡。家族・管理者に連絡。受信後、家族に経過報告。問題がなければ、休養しながら通常利用していただく。入浴時、歩行時、食事中の体調急変:スタッフ2名でベッドに寝かせ、血圧・脈・体温を計測。本人の様子を観察後、〇〇医院へ報告し、指示を仰ぐ。状況によっては、往診または受診。入眠中:15分ごとに様子確認(顔色・呼吸・脈拍チェックなど)を必ず行う。意識消失等の緊急事態:すぐに救急車を要請する。家族へ連絡

上に挙げたチャート表を参考にして、家族と一緒に利用者の安全を守るための対応を考え、合意しておきましょう。

自宅で「いつもと違うこと」があれば報告をもらおう

介護施設では、利用者の安全に対して万全の配慮を行っています。しかし、利用者が自宅に帰ったあとに起こった出来事を、通所施設側が全て把握することは不可能です。

ですから、せめて事故防止に関連するかもしれない情報については、必ず家族から伝えてもらえるような関係を築きましょう。

では、事故防止に関連する情報とは、どのようなことを指すのでしょうか。

たとえば、利用日の前日まで発熱していたとしたら、いつもは歩行が安定している利用者でもふらつくことがあるかもしれません。杖を買い替えたとしたら、いつもと勝手が違うので慣れるまで危険があるかもしれません。

このように体調の変化や用具の変更などの「いつもと違う」点を知ることは、事故を防止するうえで非常に大切です。お迎えのときにひと言伝えてもらえるよう、日頃から家族にお願いしておきましょう。

家族に教えてもらいたい自宅での出来事の例

自宅で次のような変化、出来事があった場合は、ご家族からその旨を伝えていただくようにしましょう。

体調不良

自宅で体調不良のため、布団に横になっている利用者のイラスト

すでに完治していても、前回の利用以降に体調の変化があった場合は報告をしてもらいましょう。

薬の変更

病院・薬局で薬を受け取る利用者と家族のイラスト。薬に変更があった場合は何がどうかわったかを利用施設に報告しましょう。

薬の変更があった場合は、何がどう替わったのかを必ず報告してもらいましょう。

意識消失や意識低下が起こったとき

意識低下の症状がでている利用者のイラスト。自宅にいます。

自宅ですごす中で、意識低下などの症状が一度でもあった場合は報告してもらいましょう。

転倒などの事故

自宅で転倒する利用者と慌てる家族のイラスト

大きなケガをしていなくても、自宅で転倒などの事故があった場合は報告をしてもらいましょう。

病院を受診した際の結果

利用者と家族が乗員を受診しているイラスト。利用施設には病院名や結果を報告しましょう。

病院を受診したり検診を受けるなどした場合は、病院名や結果を報告してもらいましょう。

福祉用具の変更

利用者が新しいシューズを履いていることを介護職員に報告する家族のイラスト。利用者の福祉用具や生活補助具を変えた場合は、利用施設に報告しましょう。

利用している福祉用具や生活補助具などを替えた場合は、報告してもらいましょう。

変更があった場合に報告をお願いしたい主な福祉用具

新たに福祉用具や生活補助具を買った(借りた)買い替えた(借り換えた)りしたときには、必ず施設側に報告してもらいましょう。

【変更があった場合利用施設に報告をするべき主な福祉用具】歩行補助杖。歩行器。シルバーカー。車椅子関連。補聴器。メガネ。リハビリシューズ。装具。

新しくて性能がよい製品であっても、慣れるまでは動作が一時的に不安定になることがあるからです。用具の変更を知っていれば、職員もいつもより気をつけて接することができます。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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