今回からは通所施設での事故防止活動をご紹介していきます。通所施設は、自宅と施設を行き来しますから、利用者を守るためには家族との連携、情報共有が大切になります。
自宅と施設を行き来する通所介護の事故防止対策は「特殊」
通所施設は、「週○回」といった形で、自宅から通ってくる利用者に対して介護保険サービスを提供する施設です。そのため、通所施設の利用者は、基本的に在宅で生活しています。
そんな通所施設の大きな役割の一つが、在宅の要介護者と社会をつなぐことです。
たとえば引きこもりがちな要介護者がデイサービスの利用を始めると体力維持につながり、外に出て人と触れ合うことで精神面にもよい影響が期待できます。
一方、事故防止の側面から見ると、自宅と施設を行き来する通所施設には、独特の難しさがあるのも事実です。そこで、今回は通所施設で事故を防ぐために注意すべきポイントについて、整理しておきましょう。
利用者を守るために「施設と家族の連携」が必要
私は、かつてあるデイサービスと連携しながら、事故防止の勉強会を行ったことがあります。そこで、自宅と施設を行き来する利用者を考えていくと、「利用者の生活をとるか、安全をとるか」という問題にしばしば突き当たったものです。
そこには、日中独居になる利用者も、徘徊がひどい利用者もいました。そうしたいろいろな状況に置かれている利用者の生活を考えると、行き着く答えは「通所施設における事故防止には、家族の理解と協力が不可欠」ということでした。通所施設にとって利用者の家族は、ともに利用者の在宅生活を支える「同志」なのだと思います。
通所施設が事故防止のために家族としっかり連携をとりたい内容の1つ目は、「緊急事態に直面したときにどう動くか」です。
上に挙げたチャート表を参考にして、家族と一緒に利用者の安全を守るための対応を考え、合意しておきましょう。
自宅で「いつもと違うこと」があれば報告をもらおう
介護施設では、利用者の安全に対して万全の配慮を行っています。しかし、利用者が自宅に帰ったあとに起こった出来事を、通所施設側が全て把握することは不可能です。
ですから、せめて事故防止に関連するかもしれない情報については、必ず家族から伝えてもらえるような関係を築きましょう。
では、事故防止に関連する情報とは、どのようなことを指すのでしょうか。
たとえば、利用日の前日まで発熱していたとしたら、いつもは歩行が安定している利用者でもふらつくことがあるかもしれません。杖を買い替えたとしたら、いつもと勝手が違うので慣れるまで危険があるかもしれません。
このように体調の変化や用具の変更などの「いつもと違う」点を知ることは、事故を防止するうえで非常に大切です。お迎えのときにひと言伝えてもらえるよう、日頃から家族にお願いしておきましょう。
家族に教えてもらいたい自宅での出来事の例
自宅で次のような変化、出来事があった場合は、ご家族からその旨を伝えていただくようにしましょう。
体調不良
すでに完治していても、前回の利用以降に体調の変化があった場合は報告をしてもらいましょう。
薬の変更
薬の変更があった場合は、何がどう替わったのかを必ず報告してもらいましょう。
意識消失や意識低下が起こったとき
自宅ですごす中で、意識低下などの症状が一度でもあった場合は報告してもらいましょう。
転倒などの事故
大きなケガをしていなくても、自宅で転倒などの事故があった場合は報告をしてもらいましょう。
病院を受診した際の結果
病院を受診したり検診を受けるなどした場合は、病院名や結果を報告してもらいましょう。
福祉用具の変更
利用している福祉用具や生活補助具などを替えた場合は、報告してもらいましょう。
変更があった場合に報告をお願いしたい主な福祉用具
新たに福祉用具や生活補助具を買った(借りた)買い替えた(借り換えた)りしたときには、必ず施設側に報告してもらいましょう。
新しくて性能がよい製品であっても、慣れるまでは動作が一時的に不安定になることがあるからです。用具の変更を知っていれば、職員もいつもより気をつけて接することができます。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています