【入所施設での事故防止策⑫】異食事故|事故防止編(第32回)

【入所施設での事故防止策⑫】異食事故|事故防止編(第32回)

異食事故は、ポイントを押さえれば危険を避けることが容易です。やみくもに何でも利用者の手の届かないところに遠ざけるのではなく、まずは「異食すると本当に危険なもの」が何かを把握しましょう。

事故の状況説明

解説をするまえに、利用者Lさんご本人と事故発生時の状況、また介護士がどう対処したかを振り返ってみましょう。

利用者の状況

Lさん 82歳・男性・要介護1・認知症:高度

Lさん
82歳・男性・要介護1・認知症:高度

大きな病歴はないものの、長男家族と同居するための引っ越しをきっかけに認知症を発症。

まだ同居を始めて4ヵ月ですが、その間にどんどん認知症が進行し、このたびようやく要介護認定を受けたので、デイサービスの利用を開始することとなりました。

事故発生時の状況および対処

AM10:00

デイサービス利用初日に家族と施設にやってきた利用者のイラスト

この日からデイサービスの利用を開始することになったLさん。長男の奥様が「心配だ」ということで、初日は送ってきてくれました。

PM2:30

入浴のため脱衣所で待機してもらっている間に、浴槽洗剤のボトルの中身を飲んでしまった認知症利用者のイラスト

午前中から昼食まで、Lさんは特に問題もなく穏やかに過ごしていました。

入浴の時間になり、順番を待つ脱衣所で待機してもらいました。その間に浴室のキャビネットを開き、浴槽洗剤の詰め替え用ボトルを開け、中身を全部飲んでしまいました。

PM3:00

浴槽用洗剤を飲んでしまった利用者を救急車で緊急搬送しているイラスト

看護師の判断で、すぐに病院へ救急搬送。胃を洗浄し、その後は経過観察のため入院となりました。

家族はデイサービスに通いだした途端の事故にショックを受け、利用を中止してしまいました。

【過失の有無】事故は未然に防ぐことができたか

この事故で過失の有無はどのように判断されるのでしょうか。

事故評価の基本的な考え方

認知症のBPSDによって引き起こされる症状の一つである「異食」ですが、見守りを強化してもあまり効果がありません。むしろ、「異食すると生命に関わる危険な物品を明確にして、しっかりと管理する」という対策が必要です。

この事例では、詰め替え用の浴槽洗剤を鍵のかからないキャビネットに収納していたのですから、管理が杜撰だったと言わざるをえません。

この事故が過失とされる場合

塩素系の洗剤やアルコール製剤を鍵のかからないキャビネットに保管している様子

食用でない物品の異食全てを防ぐことは不可能なので、異食事故の全てに責任を問われるわけではありません。過失とされる可能性があるのは以下のような場合です。

  • 異食したときに利用者の生命や体に重大な害を与えるような危険な物品の管理を怠った結果、認知症の利用者がこれを口に入れて被害を受けた場合
  • 特に、塩素系の洗剤やアルコール製剤などの、誰の目から見ても危険であることが明らかな物品の管理を怠った場合

こんな事故評価はダメ!

  • 異食癖があるとは聞いていなかったので、防ぎようがなかった

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか

今回のケースでも、利用者側、介護職側、施設側の3方向からアプローチする方法で事故分析を行いましょう(第15回参照)。

利用者側

  • 高度の認知症であり、そのうえ当日は初めての施設利用だったので落ち着かなかった

介護職側

  • 利用者に異食癖があるかどうかを、事前に把握していなかった
  • 少しの間とはいえ、異食癖がある高度認知症の利用者を、危険物がたくさんある脱衣所に放置した

施設側

  • 洗剤などの危険な物品を保管する場所として、鍵がかからないキャビネットを使用していた
  • お年寄りでも簡単に開けられる容器に入れて洗剤等を保管していた

こんな事故評価はダメ!

  • 利用者が勝手にキャビネットを開けてしまったため

  • 異食癖があることを家族が施設側に伝えなかったため

再発防止策の検討

続いて、有効な再発防止策を3つご紹介します。

異食癖などのBPSDを把握する

利用者の家族に、利用者にBPSDの有無を聞いているイラスト

異食癖があるかどうかは非常に重要な情報ですから、施設側には事前に確認する義務があります。

このとき「何かBPSDはありますか?」と聞くのではなく、「異食があるかないか」を具体的に聞くことが大切です。

異食すると危険な物品を身のまわりに置かない

殺虫剤など異食すると危険な物品を利用者の手が届く場所に置いていないかチェックする介護職員のイラスト

異食すると危険な物品(ページ下段の一覧参照)を利用者の手の届く場所に置いていないか、定期的にチェックしましょう。

重点的に見まわるべき場所は、日常生活で目が届きにくい浴室・トイレ・洗濯室などです。

異食を疑われる場合は必ず受診する

異食した疑いがある認知症利用者と介護職員のイラスト

認知症の利用者が異食した疑いがあるのに受診せず、医療処置が遅れると、重大な事故につながることがあります。

これを避けるためには、確信が持てなくても危険な物品を異食した「疑い」があれば、即受診とするべきです。

事故対応や家族への対応は適切であったか

異食をしている利用者に声掛けをする介護職員のイラスト

家庭用の浴槽洗剤の多くは少しくらい異食しても生命の危険はありませんし、中毒症状すら出ない場合がほとんどです(つまり胃を洗浄する必要はなかった)。

私の見ている施設でも、ティッシュペーパーや観葉植物、土などの異食は頻繁に起こっていますが、みなさん相変わらず元気にすごしていらっしゃいます。

何が危険なのかの正しい知識を持ち、利用者の生活を制限しすぎないようにしたいものです。

異食すると本当に危険なものは限られている

認知症がある利用者は食べられないものを食べてしまうことがあり、これを異食事故と呼びます。認知症のBPSDによって引き起こされる症状の一つですが、身のまわりのものを遠ざけたり見守りを強化してもあまり効果がありません

そこで必要な対策が、先述した再発防止策です。この3つを徹底できれば、多くの場合は深刻な被害には結びつきません。

家庭に入り込む製品はPL法の影響もあって、多くの物品の原料は異食しても心配がない成分ばかりです。ですから、やみくもに異食を止めるのではなく、次に挙げる「本当に危険なもの」だけは絶対に異食しないように対策を立てましょう。

【異食・誤飲すると危険な物品】異食・誤飲すると即生命に関わる毒性の強い物品:電池類・殺虫剤・防虫剤・塩素系漂白剤・アルカリ性洗浄剤・マニュキュア・除光液・石油、ガゾリン類・薬・タバコ・灰皿の水。移植すると怪我、または窒息する恐れのある物品:画鋲・針・無い古い・紙おむつの吸水ポリマー

また、洗剤や消毒液など頻繁に使用する危険なものについて は、知的障害者施設などで活用されている「セーフティキャップ付きのボトル」に詰め替えておくと安心です。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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