【ヒヤリハット活動】原因の奥まで探る「なぜなぜ分析」と「事故原因分析シート」を取り入れよう|事故防止編(第16回)

【ヒヤリハット活動】原因の奥まで探る「なぜなぜ分析」と「事故原因分析シート」を取り入れよう | 事故防止編(第16回)

今回は、ケース検討会議における原因究明方法について考えてみましょう。ヒヤリハットの原因をさらに掘り下げて突き詰めることで、事故防止のために本当にやるべきことが見えてくるのです。

リスク要因を探す「なぜなぜ分析」とは

ヒヤリハットの原因を多角的に書き出したら、続いてはその原因を誘発した要因(二次要因)を考えましょう。要因を探るには、「なぜこの原因が生まれたのか」という「なぜ」を突きつめていくことが大切です。

たとえば、第15回「【ヒヤリハット活動】本当の事故原因を探すためのアプローチ方法を紹介」で例に挙げたBさんについて調べたら、「前日の夜に睡眠薬を飲んでいたことが原因の一つのようだ」という仮説が浮かぶとします。そうしたら「なぜBさんは朝になっても睡眠薬の効果が残るのか」を考えるのです。そうすると「高齢で小柄なBさんにとって睡眠薬は、通常の処方量だと多すぎるのではないか」という二次要因が考えられます。

「車イスのブレーキがゆるんでいたこと」が原因なら、「なぜブレーキがゆるんだのか」を考えましょう。このようにして原因の奥にある要因を探す手法を「なぜなぜ分析」と言います

【見本あり】事故原因分析シートの活用法

ケース検討会議における原因究明方法をまとめたものが次の表です。

【リスク要因まで考える事故原因分析シート】直接要因として利用者側の原因(なぜ利用者が急にふらついたのか)・介護職側の原因(なぜ職員がささえられなかったのか)・設備や用具などの原因(設備や用具などに不備はなかったか)の3つにわけて以下のとおり。一次要因:二次要因。◇利用者側の原因◇早朝に急激な低血糖を起こしていた:血糖値コントロールがうまくいっていない。前日眠前の睡眠薬が残っていた:睡眠薬の処方量が多すぎる。動作方法に無理があった:居宅での解除方法と施設の介助方法が異なり慣れていなかった。ベッドにつかまるものがなかった:福祉用具の見直しを怠っていた。ベッドが高すぎて滑り落ちた:ベッドの高さを利用者に合わせていなかった。洋服が滑りやすい素材だった:居宅で来ていたシルクの洋服をそのまま持ってきていた。◇介護職側の原因◇解除方法が不適切だった:新しい無理のない介助方法の研修を行っていない。声のかけ方が不十分がった:離床時の声掛けマニュアルがない。利用者の動作の癖を知らなかった:利用者別の個別介助法の訓練を行っていなかった。介護職の履物が適切でなかった:安定した履物を着用するような規則がなかった。介護職の体調が悪かった:体調が悪い職員に申し出を促したり、フォローしたりする体制がない。介護職の精神状態が不安定だった:10日前の深夜に体調急変の利用者が出て、夜勤が不安であった。◇設備や用具などの原因◇車イスのブレーキがゆるんでいた:車イスのブレーキを点検するルールがなかった。端に座った時マットレスがへこんで滑り落ちた:マットレスが柔らかかった。車イスのフットサポオートが邪魔になり引っかかってバランスを崩した:車イスのフットサポートが開閉しない古いタイプを使っていた。ベッドが低床ベッドではなく、利用者の足が床にしっかり届かなかった:身体機能に合わせてベッドや福祉用具の見直しを行っていなかった。車イスのアームサポートが跳ね上げ式でなかった・古い車イスを買い換えないで使っていた。居室の床がすべりやすかった:滑り止めのシートなどを敷いていなかった

このように「利用者側の原因」「介護職側の原因」「設備や用具などの原因」からたくさんの原因を見つけ、それらの原因を「なぜなぜ分析」で深く掘り下げます。

こうすることで、ヒヤリハットや事故の原因をつくり出すリスク要因をも発見することができるのです。

ある施設では、これらの分析結果をもとに「転倒リスクアセスメントシート」をつくりまし た。それが下図です。

これを使うと「介護度は低いのに、意外と転倒リスクが高い人」が発見されるそうです。

【転倒リスクアセスメントシートを活用する】 利用者の特徴をスコア管理し、転倒の危険度を見えるかする。分類と特徴は下記。分類:特徴。年齢:65歳移乗である・転倒、転落したことがある。既住歴:平衡感覚障害がある・視力障害がある・聴力障害がある。運動機能障害:自立歩行ができるがふらつきがある・車イス、杖、歩行器、ストレッチャー、リクライニング式車イスを使っている・自由に動ける・移動に介助が必要である・寝たきりの状態であるが、手足は動かせる。記憶力:認知症がある、不穏行動がある、判断力・決断力・記憶力のて低下がある・見当識障害、意識混濁がある。薬剤:睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、向精神薬薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、筋弛緩薬、5種類以上の薬を服用。排泄:尿失禁、便失禁がある・頻尿、トイレまで距離がある、夜間トイレに行くことが多い・ポータブルトイレを使用している・車いすトイレを使用してる。膀胱留置カテーテルを使用している・排尿には介助が必要である。病状:脱水症状がある・貧血症状がある・リハビリの開始時期、訓練中である・症状やADLが急に回復・悪化してきている時期である。本人の症状:ナースコールを押さないで行動しがちである、ナースコールを認識できない・行動が落ち着かない、何でも自分でやろうとする・環境悪化(新規入所・ショート初回利用)が大きい。
※ダウンロードはこちら

このように事故原因の究明は、発想次第で多角的な事故防止対策につなげることができます

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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