【管理職必読】人手不足解消のチャンス!? 介護業界が人材採用で気をつけるべきこと

【管理職必読】人手不足解消のチャンス!? 介護業界が人材採用で気をつけるべきこと

新型コロナウイルスによる不景気の影響で解雇されたり、収入が激減する人が出てきたことで、すでに多くの人が介護業界に転職しようと動いています。人材採用がしやすくなったこの状況で、採用時に気をつけるべきことはなんでしょうか。

不況でも介護職員は一貫して増加する

新型コロナウイルスによる不況は企業活動にも大きな影響を与え、その結果、失業者が増加しています。不況に強いと言われる介護業界には、どのような影響があるのでしょうか。

【有効求人倍率と介護職員数の推移(全職種、介護分野)】好況不況に関わらず、常に介護職の需要は高い。以下、年度:介護分野の求人倍率:全職業の求人倍率。2004年:1.10%:0.80%。2006:1.68:1.02。2008(リーマンショック):2.31:0.84。2010:1.31:0.48。2012:1.74:0.72。2014:2.22:0.97。2016:3.02:1.36。
出典:『介護分野の現状等について』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

過去の動きを見ると、リーマンショックが発生した2008年とその後の経済低迷期も含め、介護職員数は一貫して増加していることがわかります。

また、全業種と比較して介護分野の有効求人倍率が常に高いことが示すとおり、高齢化が進む日本において、介護職が経済の状況にかかわらず必要とされる職業であることは周知の事実です。

新型コロナウイルスの拡大で窮地に陥っている業界は?

コロナ禍で働いていた会社が倒産、ないしは解雇されたり、先行きの不安を感じて退職したりした人たちの中には、「次に働く場所は長く安定して働ける職場がいい」と介護業界に目を向ける人も多いでしょう。

今すぐ就職したいというニーズを持った人には、未経験者でも採用されやすいという点も魅力となり、特に厳しい状況にある、以下の業界などからの転職が多くなることが予想されます。

  • 宿泊・飲食サービス業
  • 生活関連サービス・娯楽業
  • 製造業

今年6月には学研ココファンとメディカル・ケア・サービスの2社が合わせて1,000名の採用枠を確保するなど、現状を他業界から人材を迎え入れる好機と捉えている介護事業者も多いでしょう。

人手が増えても喜べないケースもある

介護の現場の多くは人手不足に悩んでいますから、これを機に職員が増えるのであれば万々歳と思われるかもしれません。

しかし、介護業界はもともと早期離職の割合が高く、『令和2年度 介護労働実態調査』(公益財団法人 介護労働安定センター)によると、離職者のうち4割近くは1年未満しか勤続していません。

【介護業界 離職者の勤続年数】の円グラフ。早期離職が原因で既存職員の負担が増えることも。1年未満で退職:35.6%。1~3年未満で退職:24.8%。3年以上で退職:39.7%という結果。
※『令和2年度介護労働実態調査』(公益財団法人 介護労働安定センター)を基にWe介護編集部で作成

その上、不況のあおりを受けて、普段なら介護業界に興味を持たなかった人が志望してくるのです。なかには「未経験でもとりあえず就職できそう」と、一時的な仕事と割り切ってやってくる人もいるでしょう。

また、最初は「長く働いて貢献しよう」と前向きな思いで入っても、始めてみると「自分には合わない」「思ったより大変だった」とモチベーションを下げ、辞めてしまうケースもあります。

ですから、これまで以上に応募者の意思や資質をしっかり見極めて採用する必要があります。そうしないと、せっかく人手が増えても、新人のフォローや短期で辞めてしまった人の穴埋めなどで却って現場が混乱します。

人材獲得のチャンスだからこそ採用は慎重に

応募者が集まりやすいときこそ、人材採用は慎重に。これは、介護業界に限らないポイントです。

例えば成長中のベンチャー企業などは、事業が軌道に乗りそうなときや外部から資金調達をしたときに、安易な採用をして失敗することがあります。

増加する取り引きに対応するために、あるいは事業計画に描いた成長を実現するために、「人手がなくちゃ始まらない」と人を増やすことに一生懸命になってしまいがちです。

しかし、人が多くいれば多くの仕事ができるようになるのかというと、そんなわけはありません。

ベンチャー企業の失敗に学ぶ、採用を成功させる方法

最近のベンチャー企業は、歴史ある大企業のような体制が整っておらず経営も不安定です。それでも、世の中に対して新しい価値を提供したいという創業者の熱意に共感し、みんなが同じ方向を向いているから成り立っているケースが多いのです。

そこに共感度の低い人や、組織として目指す方向を理解していない人が入ってくると、その人のパフォーマンスが発揮されないだけでなく、既存のメンバーの輪も乱してしまうことになります。

下手をすると、もとから活躍していた人たちが退職していき、以前よりも人員不足になってしまうということにもなりかねません。

【採用失敗負のスパイラル】人材不足→焦って採用する→定着しない(ミスマッチ発生)→既存職員に負担がかかる→既存職員まで離職。

最近のベンチャー企業はこのような「負のスパイラル」の危険性をよくわかっており、人材採用におけるさまざまな工夫がなされるようになってきています。

ミスマッチを防止する採用手法

ベンチャー企業などで取り入れられている採用手法を紹介します。

例えば「リファラル採用」といって、社員が自分の知人や友人を紹介することを推奨する採用手法があります。そのためにかかった交際費や、入社が決まった場合の報奨金を紹介した社員に支給する会社が増えています。

会社にとっては、社員が人柄や職歴を知った上で紹介してくれる人なので、ミスマッチの可能性を低くすることが可能です。

紹介される側の人にとっても、事前に社員の目線で会社の様子を聞くことができ、入社してから「こんな会社だと思わなかった」というギャップが起きにくくなるほか、入社時から知り合いがいるので安心できるといった利点があります。

もうひとつ、これから増えていきそうなのが、数回の面接だけで採用を決めず、まずは一定期間一緒に働いてみて、お互いの相性を見極めるという方法です。「お試し採用」「お試しワーク」「社会人インターン」などいろいろな呼び方があり、期間も数日〜数ヵ月まで企業によって異なります。

ベンチャー企業か大企業かを問わず、最近は会社員が副業を持つことも少しずつ許容されてきています。転職検討者にとっては今の会社を辞めずに副業で他の会社の仕事を経験してみて、そちらでやっていけそうだと感じたら転職、というステップは非常に合理的です。

企業にとっても、仕事のスピード感、他の社員とのコミュニケーション力など、職務経歴書や面接だけではわからないことを見極める機会になります。

介護業界で取り入れられる方法は?

【早期離職を防ぎやすい採用手法】「リファラル採用」と「お試し採用」がある。「リファラル採用」は、社員が知り合いを紹介し、推薦する採用方法。(ポイント)採用コストの削減と職場への適応の早さが見込める。「お試し採用」では、1日~数週間の体験を通じてお互いに納得できたら採用する手法。(ポイント)ミスマッチの防止が見込める。

「リファラル採用」や「お試し採用」といった方法は、介護業界でもぜひ取り入れていただきたいと思います。

リファラル採用の導入

「リファラル採用」の導入については、スタッフに「介護の仕事に興味を持っていて、一緒に働けそうな人がいたら紹介してほしい」と伝え、周知します。友人や知人を誘うことへの動機づけとしては、紹介によって入社した人が一定期間(試用期間3ヵ月など)働き続ければ、紹介者の給料に紹介料を上乗せする制度を作ることをおすすめします。

「私が働いている施設で働かない?」と声をかけるのは勇気がいることですが、失業や休業などで困っている人が増えている今であれば、「友人や知人を助けてあげたい」という気持ちで行動に出る方も多いのではないでしょうか。

リファラル採用の特徴は、縁故採用とは異なり、選考はきちんとするということです。いくら職員の紹介でも、最終的には人事や施設の責任者が採用・不採用を決めるということを、紹介者にも紹介された人にも予め伝え、納得してもらう必要があります。

お試し採用の導入

「お試し採用」については、すでに実施されている介護事業者も多い「職場見学」「職場体験」の発展版と考えればよいでしょう。1⽇〜数週間にわたって仕事を経験してもらい、お互いに納得できれば入社してもらうのです。

従来の「職場見学・体験」であれば無給で実施されているところも多いと思います。しかし、よりリアルな状況を真剣な態度で経験してもらうためには、期間限定のアルバイトとして受け入れるなどして、きちんと賃金を払う方が望ましいでしょう。

「お試し」の間は、職場と採用候補者が互いを知り合う期間です。

そのため、事業者側は「普段の、ありのまま」の職場の様子を見せることが重要です。実態より良く見せようとしたり、仕事のキツイ部分を隠してしまったりすると、入社後にギャップが判明し、モチベーションが下がってしまう可能性があります。

また、後に一緒に働く人たちとうまくやっていけそうかどうかが見られるのも「お試し採用」の良いところです。ぜひ、現場のスタッフに「あの人、うまくやっていけそう?」と意見を聞いてみてください。

さらに、東京都福祉人材センターでは「介護人材確保対策事業」の一環として、職場体験事業を展開しているので、施設で取り入れられないかぜひ検討してみましょう。(※2,020年8月27日時点 新型コロナウイルスの影響で実施延期中)

丁寧な採用活動と教育体制の構築がスタッフ定着のカギ

「リファラル採用」や「お試し採用」は手間がかかって大変だと思われるかもしれませんが、その結果として採用できた人材の定着には大きな効果があるはずです。応募者の増加が見込める今の時期だからこそ、丁寧な採用活動で定着が見込まれる人材を入職してもらうことが重要になります。

ただし、良い人を採用できたとしても、放ったらかしではその力が発揮できません。きちんと教育のされないまま実務に回されればトラブルやクレームにつながる可能性がありますし、周囲の接し方などによっては早期退職やメンタル不調にもつながりかねません。

採用活動の見直しと同時に、新しく入社してくるスタッフの教育研修体制も整えておきましょう。

著者/やつづかえり
タイトルイラスト/福島モンタ
@fukushimamonta

(参考)
介護分野の現状等について』(厚生労働省)
介護人材確保対策(参考資料)』(厚生労働省)
令和2年度 介護労働実態調査』(公益財団法人 介護労働安定センター)
1000名の採用枠確保 雇用環境悪化で 学研ココファン/MCS』(高齢者住宅新聞)

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