毎年7月末になると、厚生労働省は日本人の平均寿命を発表します。そこで世界に冠たる日本人の長寿ぶりが話題になりますが、平均寿命よりも大切な指標である平均余命の違いをご存じでしょうか。
平均余命と平均寿命の違いとは?
平均余命と平均寿命の違いをパッと答えられる人はどのくらいいらっしゃるでしょうか。平均余命という言葉を初めて聞く人もいるかもしれません。
厚生労働省が公表している、「簡易生命表」のデータも参考にしながら、平均余命と平均寿命の違い、長生きの基準について考えていきます。
男女ともに平均寿命が前年を下回る【2022年最新データ】
厚生労働省は、毎年7月30日に「簡易生命表」を発表しています。簡易生命表とは、「1年間の死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生られるかという期待値」を表わしています。
2022年7月に発表された2021年の日本人の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳で、いずれも10年ぶりに前年を下回る結果となりました。世界ランキングで見ると女性は第1位、男性はスイス(81.6歳)、ノルウェー(81.59歳)に続いて第3位です。
※男女ともに2019年まで第1位だった香港は、地域(特別行政区)として2020年以降のランキングから除外されました
一般的に、高齢の方が長生きかどうかを考えるとき、みなさんの頭には平均寿命との比較が浮かぶのではないでしょうか。たとえば、70歳の女性の場合、平均寿命との差を計算して「この方は、平均寿命を超えるまであと17年」といった具合に……。
でも、実はこの計算は間違いです。「今○歳の人は、あと○年生きられる」と推計するのであれば、平均寿命ではなく平均余命と比べなければなりません。
平均寿命とは「0歳時点での平均余命」のこと
平均余命とは、今〇歳の人があと何年生きるかを示しています。
2021年の簡易生命表によると、70歳の女性の平均余命は20.31年なので、「この方は90歳までは生きられる可能性が高い」ということになります。
「あれ、平均寿命を超えてしまうけど……」と思いますよね。その通りです。人は、高齢になればなるほど(あくまでも統計的にですが)、平均寿命を超えて長生きします。
では、平均寿命とは、いったい何を表わしているのでしょうか。
平均寿命とは、0歳の日本人の平均余命を表わしています。幼児死亡率が下がったとはいえ、幼くして、あるいは若くして亡くなる人はいますが、その危機を乗り越えた人々が生きる年数は、歳を追うごとに長くなっていくのです。
年代別の「平均余命」一覧表
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
0歳 | 81.47年 | 87.57年 |
10歳 | 71.70年 | 77.78年 |
20歳 | 61.81年 | 67.87年 |
30歳 | 52.09年 | 58.03年 |
40歳 | 42.40年 | 48.24年 |
50歳 | 32.93年 | 38.61年 |
60歳 | 24.02年 | 29.28年 |
70歳 | 15.96年 | 20.31年 |
80歳 | 9.22年 | 12.12年 |
90歳 | 4.38年 | 5.74年 |
出典:『令和3年簡易生命表』(厚生労働省)もとにWe介護編集部で作成
上の表をご覧ください。例えば、90歳の利用者の場合、男女いずれの方でも平均寿命は超えていますが、男性であればあと4年半近く、女性であればあと6年近くは生きられる可能性が高いことになります。
介護のプロであれば、平均寿命以上にこの平均余命の方が重要だということを理解しておきましょう。「自分がお世話する利用者は、家族やご本人の希望に応えるためにも、みんな平均余命を超えていただきたい」と思って働くことができれば理想的です。
介護が必要な本当の期間は?
さらに知っておいていただきたいのは、介護を受ける期間は、国が発表する期間よりも長くなるということです。
厚生労働省は3年に一度、日本人が「介護を受けたり寝たきりになったりせず、制限なく健康な日常生活を送ることが可能な期間」である健康寿命も発表しています。
以前はWHO(世界保健機関)のデータを使っていましたが、近年は厚生労働省も国民生活基礎調査(大規模調査)を使って日本独自の健康寿命を推計するようになりました。

2019年の健康寿命は、女性が75.38歳、男性が72.68歳です。上の図では、男女それぞれの平均寿命から健康寿命を引いて、日本人が介護を受ける平均期間を示してみました。
厚生労働省もマスコミも、このような「引き算」をして「70代になったら準備が必要」と訴えます。しかし、前述したように、日本人は平均寿命を超えて生きるのです。
ですから、介護が必要な期間は「女性12.19年、男性8.79年」よりも長くなります。国から発表されるこの数字は、あくまでも「年齢によって異なる平均余命ではなく、便宜的に平均寿命を用いた数字」であることを知っておかなければなりません。
自分の親や自分自身の将来設計を行うときは、平均余命から健康寿命を引いた計算で導き出された推計が必要です。老後に向けた備えの必要性は、国や(国の発表を伝える)マスコミが言うよりもさらに高いことを理解しておきましょう。
著者/東田勉
(参考)
『令和3年簡易生命表』(厚生労働省)
『健康寿命の令和元年値について』(厚生労働省)(内閣府)