【訪問施設での事故防止策⑤】ヘルパー滞在中の行方不明事故|事故防止編(第49回)

【訪問介護での事故防止策⑤】ヘルパー滞在中の行方不明事故|事故防止編(第49回)

業務内容になくても、ヘルパーの過失になってしまう事故が行方不明です。訪問介護でも認知症の利用者への見守りは欠かさず、また行方不明になった際の対策を立てておくべきです。

事故発生時の状況

はじめに、事故の内容を確認しましょう。

利用者の状況

CDさん 81歳・男性

CDさん
81歳・男性

CDさんは重度の認知症です。市内に住む長女が主介護者ですが、パートをしているため週に3日のデイサービスと、週に2回ヘルパーの生活援助サービスを受けています。

発生時の状況

ある日、ヘルパーが生活援助の訪問介護で利用者CDさん宅を訪問し、掃除機をかけている間にCDさんがいなくなってしまいました。ヘルパーはCDさんに注意を払って声をかけたりしていましたが、掃除機をかけているときに玄関から出て行ってしまったために、音が聞こえませんでした。

生活援助の訪問介護で利用者のお宅を訪問し、掃除機をかけているヘルパーのイラスト。利用者が玄関から出ていこうとしています。

必死の捜索もむなしく、CDさんは近くの駅で列車にはねられ亡くなってしまいました。家族も、担当ヘルパーも非常に大きなショックを受け、それ以降ヘルパーは仕事ができる精神状態ではありません。

そんな折、鉄道会社から遺族に、遅延損害720万円を支払うよう請求が来てしまったのです。遺族は「ヘルパーが見守りを怠ったことが原因だ」として、訪問介護事業者に支払いを求めてきました。

認知症の利用者が生活援助中出ていってしまい、列車にはねられて亡くなり、大きなショックを受けるヘルパーのイラスト。鉄道会社から遅延損害の請求もきています。

ヘルパーは、「ふつうに生活援助を行っていたら、まさかこんなことになるなんて……。もう、どうしたらいいのかわかりません」と話しています。

【過失の有無】事故は未然に防ぐことができたか

続いて、この事故の過失について考えていきます。

事故評価の基本的な考え方

この場合、ヘルパーの過失責任を否定するのは難しいと考えられます。なぜなら、ヘルパーは介護のプロで、認知症の利用者が行方不明にならないように見守る能力があるとみなされるからです。裁判所の判断の是非はともかく、認知症の利用者の訪問介護では、利用者が行方不明にならないよう注意しなくてはなりません。

この事故が過失とされる場合

在宅の認知症の利用者の行方不明事故について裁判所で審議されているイラスト

在宅の認知症の利用者の行方不明事故が、ヘルパー滞在中に起きれば、裁判所は「ヘルパーが見守りを怠ったことが事故の原因だから、ヘルパーの過失である」と判決を下すでしょう。

この事例の類似事故

  • ヘルパーが料理をしている間に利用者が家を抜け出し、近所の子どもを殴ってしまった

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか|事故原因の考え方

本来、訪問介護のヘルパーには、在宅の認知症の利用者が行方不明にならないように居宅で見守る義務はありません。なぜなら、介護保険では、「利用者の見守り」というプランは立てられないからです。

しかし、現実にはヘルパー滞在中に行方不明事故が発生すれば、ヘルパーが見守りを怠ったとして過失を認定される可能性が高いのです。ですから認知症がある利用者で、家を勝手に出て行ってしまうリスクがあるとわかっていれば、できる限り気を配らなければなりません。

また、認知症の利用者の行方不明には、日常的な備えも大切です。迅速に捜索の手配を行えるよう、事業者側はルールを決めておかなくてはなりません

この事故は、ヘルパーが見守りを怠ったことが根本原因と考えられます。

在宅の行方不明者を一刻も早く発見する工夫は?

早期発見につながる工夫として、次の4つのポイントを押さえておきましょう。

自分たちで何とかしようとしない

サービス利用中に行方不明になった利用者を捜索するヘルパーのイラスト

自宅や周辺を20分程度捜して見つからなかったら、それ以上自分たちで何とかしようとせず、速やかに警察に捜索願を出しましょう。

周囲に捜索協力を得る

行方不明になった利用者捜索のため、公共交通機関・タクシー会社などに協力を依頼している様子。タクシーが利用者の特徴をアナウンスしています。

ケアマネジャーと協力し、送迎を行っている介護事業所や、公共交通機関、タクシー会社、宅配便事業者などに連絡して捜索の協力を依頼すると良いでしょう。

自治体の介護保険課に連絡する

自治体の介護保険課と連携をして、行方不明の利用者の捜索をするイラスト。

自治体の介護保険課に連絡をして「徘徊SOSネットワーク」が整備されているかを確認し、あれば地域包括支援センターと連携して活用しましょう。

利用者の衣服または靴に印をつけておく

利用者が行方不明になったときのための対策。利用者mp靴のかかと部分に蛍光テープを貼り、電話番号を書いておく。

認知症の利用者の靴のかかと部分に蛍光テープを貼り、電話番号を書いておく。気がついた通行人が連絡をくれることがあります。

実際に起こった事故から学ぼう

在宅の認知症の利用者が自宅で行方不明になり、第三者に不法行為を行い損害を与えた場合、通常は本人に代わって在宅で介護をしている家族が賠償義務をおうことが多いと思われます。家族は民法が規定する「責任無能力者の法定の監督義務者に準ずべき者」に当たるとされることが多いからです。

では、独居の利用者宅に訪問介護のヘルパーが滞在中に、利用者が行方不明になったらどうなるのでしょうか。

2016年3月1日に実際に下された最高裁判決では、列車事故を起こした認知症男性の妻は要介護認定を受けており、監督義務は否定されました。しかし要介護状態の妻で、監督義務がギリギリで否定されるくらいです。ヘルパーはおそらく、過失と認定されると思われます

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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