【訪問施設での事故防止策②】退院直後に移動介助による転倒|事故防止編(第46回)

【訪問介護での事故防止策②】退院直後に移動介助による転倒 | 事故防止編(第46回)

高齢の利用者の身体機能は、いつも同じとは限りません。漫然と同じ介助を続けていては危険な場合があります。特に、入院後の再利用の際は変化を必ず確認すべきです。

事故発生時の状況

まずはじめに、事故状況の詳細を見ていきましょう。

利用者の状況

Xさん 78歳・男性

Xさん
78歳・男性

脳血管障害による左半身マヒがある。持病の腎臓病が悪化したため、2週間ほど入院していた。この日は退院した直後だった。

発生時の状況

入院のため週3回の訪問介護が中断していたXさんが退院したので、この日から訪問介護を再開しました。ヘルパーが挨拶をしたところ、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれて安心しました。

その後、いつものようにベッドから車椅子への移乗を介助しようとしたときのことです。

入院のため訪問介護を中断していた利用者の元に久しぶりに介護に訪れたヘルパーのイラスト。

まずは、ベッドからの起き上がりを介助しました。これは問題なくできて、ベッドの上で座位がとれました。

次に、立位になってもらって車椅子に移乗させようとしたところで、ひざがフニャッと曲がり転倒してしまったのです。

ヘルパーが利用者をベッドから車椅子に移乗させようとしたときに、利用者のひざが曲がり、転倒してしまっているイラスト。

ヘルパーは、「今まで立位はしっかりしていて、 こんなことは一度もありませんでした」と話しています。

【過失の有無】事故は未然に防ぐことができたか

続いては、本事例における事業者の過失について考えていきます。

事故評価の基本的な考え方

本事例の事故もヘルパーが利用者の体を支えながら介助行為をしている最中の事故ですから、基本的にはヘルパーの介助ミスとして事業者の過失と判断されるでしょう。

この事故が過失とされる場合

利用者の退院後の身体機能の変化を確認していなかったことをケアマネージャーに注意されるヘルパーのイラスト。

移乗など利用者の体をヘルパーが支えている介助中(介助動作中)に起きた事故はほとんどが過失となります。

ヘルパーにとっては「立位が不安定だとは聞いていなかった」と心外かもしれません。しかし、長期間の入院後は身体機能の低下を前提に、その変化を詳細に確認するべきです。

この事例の類似事故

  • 久しぶりの利用時に、前と同じように生活援助をしていたら利用者が火事を出してしまった

【原因分析】なぜこの事故が起こったのか | 事故原因の考え方

利用者の身体機能はいつでも同じとは限りません。日によって変化しますし、長期間入院生活をしていれば、必ずと言っていいほどADLの能力が低下します。

Xさんも入院前にはできていた介助時の動作ができなくなる可能性がありますから、退院時に身体機能の変化を確認しなければなりませんでした。

本来はここでも、ケアマネジャーが「Xさんは入院生活で身体機能が低下していると思いますから、再評価をしましょう」と、積極的に関わるべきでした。

事業者は利用者の身体機能を常に把握して、そのレベルに沿った介助方法で安全にサービス提供を行う義務があります。ですから、独自に利用者の身体機能を把握するべきでした。

この事故の根本原因は、利用者情報をきちんと確認しなかったことによるものと考えられるでしょう。

「介護方法変更連絡票」を活用しよう

入院していたためにしばらく訪問介護を中断していた利用者や、進行性の病気などで身体機能に変化があった利用者には「介護方法変更連絡票」をつくるなどして、ヘルパーに介護方法を周知徹底するように努めましょう。

【介護方法変更連絡票の一例】利用者名・介護方法の変更点・理由や状況説明など・次回の確認の4点を記載。以下記入例。利用者名:山田滋様。介護方法の変更点:移動は車椅子で。移乗にあたっては立位にならず、必ず座位からテーブルに手をつくなどして安定した状態で行うこと。。利用や状況説明など:〇月△日~▽日までの約半月に及ぶ入院生活で、足腰の筋力がかなり衰えています。転倒の危険性が高まっているので、十分に注意して介護してください。そのほか、排泄や嚥下機能などは以前と変化はありません。。次回の確認(目安):1か月後。退院後の生活で、身体機能が向上していると思われるので。

利用再開時は初回利用と同じ配慮をしよう

この事故の本当の原因は、利用者のADLが急激に低下したことに事業者が気づかなかったことです。

要介護の利用者が2週間も入院したのであれば、ADLの能力が低下して帰ってくることは予想できます。利用再開の前に一度、ケアマネジャーやサービス提供責任者が利用者宅を訪問し、慎重に利用者の身体機能や認知能力を再評価するべきでした

高齢者であれば、2週間の入院で認知症が深くなっていることも少なくありません。場合によっては、ケアプランの変更も必要です。

複数のヘルパーが関わっている場合は、全てのヘルパーに介護内容の変更を知らせる必要があります。「介護方法変更連絡票」をつくって引き継ぎノートやカルテに貼るなど、各事業所で工夫するといいでしょう。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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