まずは従来の事故防止活動の進め方を検証してみましょう。もっとも肝心な目標設定で、無理難題を掲げてしまうとうまくいきません。その代表格が「事故ゼロ」なのです。
介護現場で「事故ゼロ」を目指す危険性
正しい事故防止活動を説明する前に、これまでの一般的な事故防止活動のどこに問題があるかを整理してみましょう。
介護施設で事故防止活動を始めるに当たって、まず管理者が行うのが目標設定です。このときに「どこを目指すのか」という方向性を間違うと、その後の活動はうまくいきません。
例えば、「目指せ! 事故ゼロ」を目標に設定している施設がありました。
これは工事現場や製造工場などでよく見かける目標なので、一見すると事故防止活動に適しているように思います。しかし介護現場において「事故ゼロ」を目指すのは、非常に危険なのです。
「生活をしていれば事故は起きてしまう」という認識が必要
というのも、介護職は機械や道具を操作しているのではなく、人が生活することを援助しています。そして、人が生活を送っている以上、どうしても事故は起こってしまうのです。
人間は、歩いていれば誰でも転ぶ危険性があります。これは生活を送る上で当然のことですが、介護現場で起こると「転倒事故」と呼ばれる事故になってしまいます。
また、ごはんを食べれば、誰でもむせたり、気管に詰まらせる可能性があります。しかし、お年寄りはそれだけのことで「誤嚥事故」になってしまうのです。
介護において、管理者が「事故ゼロ」を目標に設定すると、現場に無理が生じてしまうのです。
現場は、目標達成のために「見守りを強化する」などマンパワーで乗り切ろうとしますが、ただでさえ忙しい介護現場では、たちまち気力、体力の限界が来てしまいます。
現場がどんなに頑張っても、事故は起きるものです。にもかかわらず、それを管理者から強く叱責されると、次第に介護職は肉体的にも精神的にも追いつめられてしまいます。
現場の職員が追いつめられると、介護の質が低下したり、身体拘束などの安易で非人間的な行為につながりやすくなってしまうので非常に危険です。
生活制限などに発展させないためにも、管理者は「事故ゼロ」などの無理な目標設定をしないよう気を付けるべきです。
次回は、事故防止活動においてもう一つ間違えやすい「事故原因の解釈」について解説します。
著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛
※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています