介護リスクマネジメント】第1回 介護現場での目標設定「事故ゼロ」には大きな弊害がある

介護現場での目標設定「事故ゼロ」には大きな弊害がある | 事故防止編(第1回)

まずは従来の事故防止活動の進め方を検証してみましょう。もっとも肝心な目標設定で、無理難題を掲げてしまうとうまくいきません。その代表格が「事故ゼロ」なのです。

介護現場で「事故ゼロ」を目指す危険性

正しい事故防止活動を説明する前に、これまでの一般的な事故防止活動のどこに問題があるかを整理してみましょう。

介護施設で事故防止活動を始めるに当たって、まず管理者が行うのが目標設定です。このときに「どこを目指すのか」という方向性を間違うと、その後の活動はうまくいきません

例えば、「目指せ! 事故ゼロ」を目標に設定している施設がありました。

これは工事現場や製造工場などでよく見かける目標なので、一見すると事故防止活動に適しているように思います。しかし介護現場において「事故ゼロ」を目指すのは、非常に危険なのです。

介護現場にて事故ゼロを目指し職員が利用者さんの見守りを強化しているイラスト。介護現場において「事故ゼロ」を目指すのは非常に危険です。

「生活をしていれば事故は起きてしまう」という認識が必要

というのも、介護職は機械や道具を操作しているのではなく、人が生活することを援助しています。そして、人が生活を送っている以上、どうしても事故は起こってしまうのです。

人間は、歩いていれば誰でも転ぶ危険性があります。これは生活を送る上で当然のことですが、介護現場で起こると「転倒事故」と呼ばれる事故になってしまいます。

また、ごはんを食べれば、誰でもむせたり、気管に詰まらせる可能性があります。しかし、お年寄りはそれだけのことで「誤嚥事故」になってしまうのです。

介護施設にて、利用者さんがごはんを食べてむせている様子。お年寄りはそれだけで「誤嚥事故」となってしまいます。

介護において、管理者が「事故ゼロ」を目標に設定すると、現場に無理が生じてしまうのです。

現場は、目標達成のために「見守りを強化する」などマンパワーで乗り切ろうとしますが、ただでさえ忙しい介護現場では、たちまち気力、体力の限界が来てしまいます。

介護施設で「事故0」を目指すばかりに、職員が肉体的・精神的に追い詰められているイラスト

現場がどんなに頑張っても、事故は起きるものです。にもかかわらず、それを管理者から強く叱責されると、次第に介護職は肉体的にも精神的にも追いつめられてしまいます。

現場の職員が追いつめられると、介護の質が低下したり、身体拘束などの安易で非人間的な行為につながりやすくなってしまうので非常に危険です。

介護施設で、「事故0」を目指すばかりに、「転倒防止のためになるべく別途に寝てもらう」「誤嚥の危険を減らすために食事を減らす」といった生活性便に発展してしまっているイラスト

生活制限などに発展させないためにも、管理者は「事故ゼロ」などの無理な目標設定をしないよう気を付けるべきです。

次回は、事故防止活動においてもう一つ間違えやすい「事故原因の解釈」について解説します。

著者/山田滋
監修/三好春樹、下山名月
編集協力/東田勉
イラスト/松本剛

※本連載は『完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編』(講談社)の内容より一部を抜粋して掲載しています

書籍紹介

完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編

介護リスクマネジメント 事故防止編

出版社: 講談社

山田滋(著)、三好春樹(監修)、下山名月(監修)、東田勉(編集協力)
「事故ゼロ」を目標設定にするのではなく、「プロとして防ぐべき事故」をなくす対策を! 介護リスクマネジメントのプロである筆者が、実際の事例をもとに、正しい事故防止活動を紹介する介護職必読の一冊です。

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  • 山田滋
    株式会社安全な介護 代表

    早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険入社。支店勤務の後2000年4月より介護事業者のリスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月よりインターリスク総研主席コンサルタント、2013年5月末あいおいニッセイ同和損保を退社。2014年4月より現職。

    ホームページ |株式会社安全な介護 公式サイト

    山田滋のプロフィール

  • 三好春樹
    生活とリハビリ研究所 代表

    1974年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームで理学療法士としてリハビリの現場に復帰。年間150回を超える講演、実技指導で絶大な支持を得ている。

    Facebook | 三好春樹
    ホームページ | 生活とリハビリ研究所

    三好春樹のプロフィール

  • 下山名月
    生活とリハビリ研究所 研究員/安全介護☆実技講座 講師

    老人病院、民間デイサービス「生活リハビリクラブ」を経て、現在は「安全な介護☆実技講座」のメイン講師を務める他、講演、介護講座、施設の介護アドバイザーなどで全国を忙しく飛び回る。普通に食事、普通に排泄、普通に入浴と、“当たり前”の生活を支える「自立支援の介護」を提唱し、人間学に基づく精度の高い理論と方法は「介護シーン」を大きく変えている。

    ホームページ|安全な介護☆事務局通信

    下山名月のプロフィール

  • 東田勉

    1952年鹿児島市生まれ。國學院大學文学部国語学科卒業。コピーライターとして制作会社数社に勤務した後、フリーライターとなる。2005年から2007年まで介護雑誌『ほっとくる』(主婦の友社、現在は休刊)の編集を担当した。医療、福祉、介護分野の取材や執筆多数。

    ホームページ |フリーライターの憂鬱

    東田勉のプロフィール

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